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法律相談Q&A労働:解雇・雇い止め
不当解雇に対する対処法(労働者の権利救済のために活用されている主な法的手段)
不当に解雇された場合に、解雇の効力を争う手段としてはどのようなものがありますか。
不当に解雇され、これを法的に争いたいと考えた場合に、具体的にどのような法的手段を選ぶかは実際に重要な問題です。以下に、法的手段の種類と概要を説明しておきます。
(1)労働審判(労働審判法)
労働審判は、個別労使関係紛争を解決する手段として設けられ、①迅速性が重視されており(15条1項)、調停を試み、調停が成立しない場合には、原則として3回以内の審理で(15条2項)労働審判を出すというシステムです。②手続きは、1人の審判官(裁判官)と労働関係に専門的な知識・経験を有する労使各1名の審判員で行われます(7条)。③労働審判においては、「紛争を解決するために相当と認める事項」を定めることができます(20条2項)。たとえば、申立書には労働契約上の地位の確認が求められていても、裁量により金銭解決の審判を出すことがありえます。④当事者から異議が出ない場合、労働審判は「裁判上の和解」と同一の効力を有します(21条4項)。⑤異議が出ると労働審判は効力を失いますが(21条3項)、異議申し立てがあった時は、当該請求について、労働審判申立時に地裁に訴訟提起があったものとみなされます(22条1項)。
この労働審判という手続きは、迅速な解決(3か月程度)を図るのに適するという特徴がある一方で、事案解決のために複雑な証拠調べを要する事件などにはなじまないとされています。3回以内の期日で解決(調停ないし審判)に至る可能性のある事件、審判に対して異議が出ないであろう事件、に適しています。
(2)仮処分(民事保全法)
解雇問題に関する申立内容としては、労働契約上の地位保全・賃金仮払い仮処分が考えられます。なお、仮処分は解雇事件に限らず、ⅰ)雇止め事件などにおける地位保全・賃金仮払い、ⅱ)退職強要禁止の仮処分、ⅲ)出向や配転事件における出向・配転命令の効力停止の仮処分、など事案に応じて様々なものが考えられます。
仮処分においては、基本的には、陳述書その他の書証を提出した上で、債権者(労働者)・債務者(会社)双方の審尋手続き(ラウンドテーブルの部屋で双方が裁判官の質問に答える手続と思ってもらえばいいです。)が行われます。解雇仮処分は、「仮の地位を定める仮処分」に当たりますから、法律上、原則として、口頭弁論または債務者(会社)が立ち会うことのできる審尋期日を経なければ命じることができないとされていますので(民事保全法23条4項)、審尋手続は必ず開かれます。しかし、口頭弁論(法廷での弁論)が開かれることは稀です。解雇仮処分は、一般民事事件の場合と異なり、保証金が必要となることは、まずありません。したがって、申立に際して多額の保証金を準備する必要はありません。
解雇仮処分においては、その審尋期日の中で和解が成立することも期待することができます。簡単には和解できそうにない事件でも一定の審尋期日を経る中で和解に至る可能性のある事件は、仮処分申立をする意味があると思われます。裁判所は、仮処分の迅速性を考慮して、3か月程度を審理期間と考えているようで、事案によりますが3か月から6か月程度で結論が得られるケースが多いといわれています。
なお、賃金仮払い命令を出すについては、裁判所は「保全の必要性」の有無、すなわち、その労働者が本当に生活に困るのかどうかを厳格に考える傾向があるようなので、申立に際しては生活実態を裁判官に理解させる必要があります。また、賃金の仮払い期間も比較的短期間に限ってくることがあるので、その場合は期限到来前に更に仮処分申立をして対応することが必要になります。
(3)本案訴訟(民事訴訟法)
前述の仮処分の方法によるのでは被保全権利の立証が困難な複雑な事件、保全の必要性が認められそうにない事件など、どうしても「本案訴訟」すなわち正式な裁判を提起しなければ解決し難い事件もあります。
一般に、労働事件では、そもそも書面化された証拠が少なく、証人を含め証拠が使用者側に偏在していることが普通ですから、労働者側の手許にある証拠方法が手薄であるケースはざらにあります。このような中で、本案訴訟を提起し、充実した原告本人尋問を行うほか、証人尋問で敵性証人に対して徹底した反対尋問を行うことで不十分な証拠を補うことも期待できます。また、労働事件においては、たとえば裁判支援運動の進展等、他の事件にも増して、様々な因子の相互影響の中で事態が変化していくことが多いので、本案訴訟の審理が進展していく中で紛争解決の契機を見出すことが期待できます。
気になる審理の期間の長さですが、極めて複雑な事件でなければ、労働事件だからといって一般民事事件よりもとりわけ長い審理期間を要するということはありません。
(4)仮差押え(民事保全法)
賃金未払がある場合は、解雇無効を争いながら、あるいはそれに先立って、民事保全法に基づく仮差押えが考えられます。賃金など労働債権保全のための保証金は、一般事件よりも低額なのが通常です。
(5)一般先取特権(民法)
賃金未払がある場合で、未払い賃金額の証明文書が入手できる場合には、先取特権(民法306条2号・308条)の実行が有効です。ただ、この手続きは、労働者の一方的な申立・請求に基づいて差押えるものですから、裁判所が「差し押さえるに相当」と判断できる程度に、しっかりした証拠が必要とされます。この点、厚生労働省が発行している「労働債権確保のための手引き」によれば、一般先取特権の存在を証明する文言等の書類等が必要とされ、①過去の給与明細、②社内規程類(就業規則や賃金規程)、が例示され、「その証明にどれだけの書類が必要かは裁判所が判断します。」との付記がついています。
しかし、給与明細を保存していなかったり、就業規則等が未整備だったり、入手できない場合もあります。その場合であっても、次のようにして証拠を揃えるよう工夫することができます。③社長や権限のある上司と話をして、未払い賃金が確かに「○○○○円」残っているという内容の書面を作ってもらう。すなわち、「未払い賃金証明書」、「未払い賃金確認書」等の書面です。また、更にもらえるのであれば、④過去の賃金台帳などのコピーも手に入れます。会社がハンコを押した書面であれば、「争いのない事実」ということになるので、それだけでも差し押さえが認められる確率が格段に高くなると考えられます。
(6)公務員の場合の人事院・人事委員会・公平委員会審理
公務員の身分問題を争う場合、公務員の地位は労働契約によるのではなく任命行為によるものであるという特殊性を反映して、特別の不服申立て制度が設けられており、不服申立前置主義や出訴期間制限など、民間労働者とは異なる点が多々あるのでとりわけ注意を要します。相談時には期限を過ぎてしまっていたということにならないよう、問題が起こった場合、速やかに弁護士に相談してください。
(7)行政機関の利用
その他、裁判手続きではありませんが、次のような行政機関が設けている手続きを利用することが考えられます。
- 福岡県労働者支援事務所における「あっせん」
- 紛争調整委員会の「あっせん」(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律)