税金の申告の相談は税理士以外にしてはいけないの?
皆さん、確定申告はお済でしょうか。税金の申告の相談は税理士にするしかないと考えていませんか?
事業者が税理士に支払う年間費用は個人事業者で約41万円、法人事業者が約56万円という試算がありますが(全商連試算)、年所得200万円以下の中小業者が約5割という試算(全商連婦人部協議会)もあり、こうした業者にとって所得の2カ月分を超える税理士費用の負担は困難です。こういう業者のニーズに応える団体として民主商工会(民商)があります。民商は、自営業・小企業・フリーランスなど、小規模な事業者が助け合い、励まし合って、営業と暮らしを守る団体で、営業と暮らしの相談業務を行っており、税金の相談も行っています。 北海道から沖縄まで、全都道府県の約600の事務所があります。
ところで、今国会では、税理士法「改正」案で税務相談停止命令制度が創設されようとしています。これは、税理士でない者が税務相談を行った場合、財務相が相談の停止を命令できる内容です。民商の活動を阻害することになりかねません。
我が国は、戦後の民主改革の一環として、申告納税制度を導入しました。
申告納税制度とは、行政の処分によって税額が確定されるのではなく、国民が、自ら税務署へ所得等の申告を行うことにより税額が確定し、これを納付すべき税額は納税者の申告により確定することを原則としました。この原則の意味するところは、税制度という国家制度自体に対して、国民が主権者として、自らが主権者として運営する国家の徴税を行うために、自らの申告という行為によって、納税義務を確定させるという意味で、まさに国民自らが主権の発露として国家運営の一翼を担うということに他なりません。
かかる申告納税制度を維持する前提には、国民一人一人が税務申告を理解し、正しく申告手続を行う知識と経験を備えることが不可欠です。しかしながら、誰しもが、そうした知識や経験を最初から独力で得られません。申告納税制度を採用した背景には、当然に、主権者としての国民の税務申告の知識や経験の醸成が期待されており、その実現のためには国民同士での知識や経験の共有は不可欠です。国民主権の発現としての申告納税制度は、主権者である国民同士での「自主記帳」「自主計算」「自主申告」及び、そのための「助け合い・教え合い」を前提としており、それらは、国民が主権者として権限を行使するための権利として保障されなければならないのです。
ところで、現行税理士法は、有償無償を問わず、「税務代理」・「税務書類の作成」・「税務相談」を業としておこなうことは原則として税理士および税理士法人に限るとし、あたかも税理士を徴税機関の一環かのように位置づけ、徴税強化、統制につながりかねない規定を定めています。
これに加えて、今国会で審議されている本件停止命令制度が設けられると、さらなる税務相談の独占化を招き、税理士等でない者の税務相談を刑罰をもって徹底して禁止することになりかねません。
本件停止命令制度は、主権者国民同士での「自主記帳」「自主計算」「自主申告」、及び、そのための「助け合い・教え合い」の機会を奪うことになり、戦後の税法・税制の申告納税原則の前提を奪い、同制度を否定するものに他なりません。
これは、国民主権の発現たる申告納税制度の否定そのものであり、本件停止命令制度は、税務分野での国民主権の破壊に他ならず、許されるものではありません。
この制度では、違反者は、3年間インターネットで公表され官報でも公告されます。財務省は「SNSやインターネットで『節税コンサルタント』を名乗り、不特定多数に脱税を指南し手数料を取って行う」事例などの防止のためだと説明していますが、違反とする対象や範囲は無限定です。税務相談を行っている個人や団体が「納税義務の適正な実現に重要な影響を及ぼすおそれ」があると税務署員が判断したら調査することができるなど極めて恣意(しい)的な運用が可能です。
誤った命令が行われた場合の救済措置も不十分です。財務省は不服申し立てや裁判ができると言いますが、誤りがあったことが認められるまでインターネット上でさらされ続けることになることはプライバシー権の侵害となります。
税務調査の際は、事前通知などの手続き規定がありますが、今回の命令制度について財務省は「事前通知は行わない」と回答しました。税理士を処分する際には行政手続法を適用し、聴聞や弁明の機会が与えられますが、その規定はありません。
イギリスには税務に関する国家資格はなく、家族、友人などに対する無償の税務代理は誰でも可能とされています。オーストラリアとアメリカでは民間や学生のボランティアが申告の相談にのっています。
本来であれば、憲法の理念に基づき、人権を保障する「納税者権利憲章」の制定こそ必要です。経済協力開発機構(OECD)加盟の主要国のうち納税者権利憲章が制定されていないのは日本だけです。納税者の権利を保障する政治を実現することが急務です。
この理念と真逆な方向に向かう税理士法改悪が阻止されることを願ってやみません。