中山篤志 弁護士記事

2024年6月15日(土)

タクシー労働者の時間外・休日及び深夜の割増賃金をめぐって

成果主義・効率主義 VS 労働者保護

事業者は労働者に対し、1日8時間、1週40時間を超えて働いた場合、時間単価に一定の「割増率」(通常の残業25%、休日労働35%、深夜労働25%、一定の条件を満たす場合の月60時間超の部分について50%)を掛けた分を、残業代として支給しないといけません(労働基準法37条並びに政令及び厚生労働省令)。
これらの規定は強行法規ですから、社内就業規則で成果主義、歩合給、年俸制のような賃金支払方法を定めようと、労働時間の実態によっては、会社は労働者に対して残業代を支払わなければなりません。

この点で、国際自動車事件(第1事件、第2事件があります)の最高裁令和2年3月30日判決で大変示唆に富む指摘がされています。
Y社の賃金規則では、①時間外労働等をした場合の割増賃金は、水揚高(売上高)に一定割合を乗じて計算した金額に割増賃金率を乗じた金額とされ、②通常の労働時間の賃金に当たる歩合給は、水揚高(売上高)に一定割合を乗じて計算した金額から割増賃金額及び通勤手当を控除した額とする、という歩合給制度を定めていました。

そうすると、水揚高(売上高)が同額である限り、時間外労働をしてもしなくても、支給される賃金総額があまり変わらない(割増賃金額が大きくなればなるほど歩合給の額が小さくなってしまう)ということになってしまいます。実際、歩合給の支給がゼロになったこともありました。そのような賃金払いの仕方はおかしいとして、X(タクシー乗務員)らは提訴しました。

第2事件第1審は、本件賃金規則による割増金は時間外労働等が行われれば必ず支給されることになるから、本件規定が労基法37条の趣旨を没却するものとはいえない、水揚高が同じである限り時間外労働等を行っても賃金の支給総額が増加しないことになるのは、割増金が支払われないことによるものではなく、歩合給(1)の額が一定の水揚高を上げるための能率に応じて低下することの効果に過ぎないところ、歩合給をどのように定まるかについては、労基法、最低賃金法等の制限が及ぶものを除き、契約自由の原則、労使自治の原則が妥当し、労使間の協議及び合意に基づく本件規定の効力は可能な限り尊重されるべきである」と説示しました。Y社の賃金規則を成果主義・効率主義的観点から後押しする新自由主義的な発想に立つものと言っても過言ではないと思います。

しかし、令和2年3月30日の最高裁判決では「ア 労働基準法37条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けているのは、使用者に割増賃金を支払わせることによって、時間外労働等を抑制し、もって労働時間に関する同法の規定を順守させるとともに、労働者への補償を行おうとする趣旨によるものであると解される。(中略)イ 他方において、使用者が労働者に対して労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するためには、割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として、労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討することになるところ、その前提として、労働契約における賃金の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要である(判別性といいます:筆者注)。そして、使用者が、労働契約に基づく特定の手当を支払うことにより労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったと主張している場合において、上記の判別をすることができるというためには、当該手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされていることを要するところ(対価性といいます:筆者注)、当該手当がそのような趣旨で支払われているものとされているか否かは、当該労働契約に係る契約書等の記載内容のほか諸般の事情を考慮して判断すべきであり、その判断に際しては、当該手当の名称や算定方法だけでなく、上記アで説示した同条の趣旨を踏まえ、当該労働契約の定める賃金体系における当該手当の位置付け等にも留意して検討しなければならないというべきである。」と判示し、Ⅹ側の主張を認め、Y会社の賃金規則の定めが割増賃金の支払いとは言えないとして、残業代の金額を審理させるため高等裁判所へ差戻しされ、最終的には会社側が未払残業代等を支払うとの和解が成立しました。

以上のように最高裁判決は、成果主義・効率主義的観点よりも労基法37条等の趣旨である時間外労働を抑制して労働者を保護する見地にたつことを示したものです。

当事務所では、タクシー会社の乗務員を含む多くの未払残業代の事件を手掛けて実績をあげています。残業代請求を考えている方は気軽に当事務所で御相談ください。

以上

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