中山篤志 弁護士記事

2024年10月6日(日)

10月5日のETV特集「巌とひで子~袴田事件 58年後の無罪」を視聴して

1.番組を視聴して
番組は、約48年間[1980年(昭和55年)12月12日からは死刑確定囚として]拘置所に留められていた袴田巌氏に対して、2014年の第2次再審の静岡地裁が2014年(平成26年)3月27日に再審開始の決定と併せて死刑及び拘置の執行停止を決定したことで、姉のひで子さんが準備していたマンションで一緒に住み始めてからの生活を撮ったドキュメンタリーです。
巌氏は新生活を始める前に胆石を摘出し、心臓のバイパス術をするなど3カ月入院をします。死刑囚に対する身体的ケアが軽視されて健康が損なわれていたのです。もっと深刻なのは精神的なダメージでした。長期の収監や死刑の恐怖による拘禁反応が残り、現実と妄想が入り交じる言葉をたびたび繰り返してきました。
拘置所では3畳一間の部屋の中を歩き回っており、マンションでも廊下を歩き回っていました。それが、一人で外出してパンやアイスクリームなどを買い物してきます。その後の巌さんの散歩には見守り隊がついているそうです。
ひで子さんは巌さんを支えてきたことが大変だったかということを聞かれると、大変だったのは自由が奪われた巌である、自分には自由があったからと仰っていました。巌氏が長生きして失われた自由が少しでも長く続くことが望まれます。

2.袴田事件の無罪の確定を!
9月26日、静岡地方裁判所(國井恒志裁判長)は、巖氏に対し、無罪を言い渡しました。二度にわたる再審請求を経て再審開始が確定し、再審公判が開かれ、無罪判決が言い渡されたものです。
「袴田事件」は、1966年(昭和41年)6月30日未明、静岡県清水市のみそ製造販売会社専務宅で一家4名が殺害され、同宅が放火された事件であり、8月18日に巌氏が逮捕され、長時間の強制的な取り調べによりいったんは自白をしたことで起訴されますが、一審の公判で否認して以降一貫して無罪を主張していました。しかし、静岡地裁は、事件判決から1年2カ月後に味噌タンク内で発見されたとする「5点の衣類」が犯行着衣でしかも袴田さんのものと認めて1968年(昭和43年)9月11日に死刑を言い渡しました。控訴及び上告も棄却され、1980年(昭和55年)12月12日に死刑判決が確定した。
その後も袴田氏は無実を訴え、再審請求を続けてきましたが、第1次再審請求は約27年間もの長期に及んだ末に棄却され、第2次再審請求の静岡地裁(村山浩昭裁判長)が2014年(平成26年)3月27日に再審開始を決定し、併せて死刑及び拘置の執行停止を決定しました。
ところが、この再審開始決定に対して検察官が即時抗告をするなどしたため、同決定の確定まで9年もの期間を要した末に再審公判が開かれ、9月26日に無罪判決がなされたのです。
この中で判決は、「犯行を自白した検察官調書」は非人道的な取調によって獲得され実質的に捏造されたものとし、5点の衣類とズボンの共布とされる端切れは捜査機関による捏造と認定しました。
再審開始を決定づけた「5点の衣類のカラー写真」は衣類が発見された当時に撮影されたにも拘わらず、第2次再審請求事件での証拠開示によって事件から30年後に開示されました。写真を見れば、1年2カ月もの長期間味噌タンクに衣類が埋まっていれば、赤い血痕は残らず黒ずんでいたこと(後に弁護団は実験結果を示します)や白いシャツが味噌に染まらないことは不自然極まりないことが相当初期の時点でわかったのではないかという点が指摘されています。
逮捕当時30歳であった袴田氏は現在88歳です。実に逮捕からおよそ48年間の長きにわたって犯人であるとの汚名を着せられ、死刑の執行の恐怖と向き合わされた被害は筆舌に尽くしがたいものだと思います。袴田氏の母親は最高裁で死刑が確定してから2年後に亡くなり、姉の秀子さん以外の姉兄も死刑囚の身内として世間から叩かれる中でも支援をしていました。
このような悲惨な立場に袴田氏やその家族を置き続けたことについて、警察官や検察官はもとより、刑事司法に携わるすべての者が猛省しなければならないと思います。警察発表を鵜呑みにして犯人扱いしたメディアの問題もあります。検察官がこれ以上の有罪立証がもはや許されないことを自覚し、無罪判決を尊重して10月10日までに上訴をしなければこの無罪判決は確定します。潔く面子を捨てて決断して欲しいと思います。

3.袴田事件などの過ちを繰り返さないために
「袴田事件」は、現行の再審法の不備を浮き彫りにしていると言われています。現在の再審法には再審請求審の手続をどのように進めるかという再審請求手続における手続規定が定められておらず、証拠開示のルール(再審における証拠開示の制度)も設けられていない。再審開始決定に対する検察官の不服申立ても禁止されていません。
このような問題は、他の再審事件でも同様に見られるところであり、まさに制度的・構造的な問題であるといわざるを得ません。
現在、国会には超党派の国会議員およそ300人でつくる議員連盟があるそうです。袴田事件の無罪が確定し、政府や国会は速やかに再審法の全面的な改正を行うべきです。

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