中山篤志 弁護士記事

2024年11月17日(日)

源氏物語に続きがあるってご存知ですか?

1.『源氏物語』で、光源氏は亡き妻・紫の上の一周忌に彼女に詠んだ和歌を添えた手紙を焼いて煙にすることで思いを届けようとし、様々な行事を賑やかにするところで表舞台から唐突に退場します。その後、薫と匂宮の新たな物語となり、最後は浮舟をめぐる2人の恋の鞘当ての結果、浮舟が苦悩の末に入水したものの生存していたのですが、その後の進退もあいまいのまま物語は終わります。あっさりと場面転換をするのが当時の流行であったとの説もありますが、読者の多くはその後の顛末をきっちり読みたいと感じたことと思います。
光源氏の出家や浮舟の進退はどうなったのか等、余白とも言うべき点について続編や補作がいくつか書かれています。もちろん紫式部によるものではなく時代も作者も異なります。『山路の露・雲隠れ六帖』(岩波文庫)にはそうした作品が集められています。「雲隠」は光源氏の出家と死を描きます。「山路の露」は薫と浮舟のその後を描きます。「手枕」は生霊をとばして光源氏の最初の正妻の葵の上(あおいのうえ)などを死なせてしまう六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)と光源氏の出会いを本居宣長が描きます。いずれも源氏物語の続きを読みたいという愛読者の熱い思いを叶えてくれる作品群です。他にもユニークな作品としては、須磨に左遷された源氏からの便りもなく侘しい日々を過ごす末摘花(すえつむはな)のもとへ思いがけず源氏が訪れるが実は狐の変化だったという「別本 八重葎」(やえむぐら)がありますが、私には一番面白かったです。
2.源氏物語は完成された作品ですが、夏目漱石の『明暗』は病死のため途中で終了したものです。
この続編が『続・明暗』(筑摩書房)で、水村美苗さんのデビュー作です。発表当時、漱石の文体を再現したということでも評判になりましたが、凄いのは、漱石が起承転結のうちの起承の部分までであったのを書き進めて転結部分まで書き上げたという点です。『明暗』では、津田が吉川夫人に唆されて婚約を破棄して別の男と結婚した清子が逗留する温泉旅館を訪れて再会する所までが描かれていますが、その後、津田と清子の顛末は?津田の妻のお延は?という肝心な部分を『続・明暗』は見事に描き切っていると思います。その結末などに批判もあったそうですが、漱石が存命していたらこういう内容や結末だった可能性は十分あったと思えますし、そうでなくても正編を踏まえて納得がいく続編だと思いました。
3.最後に、中国のSF作家・劉慈欣(りゅう・じきん/リウ・ツーシン)による長編SF小説三部作の『三体』(さんたい)のスピンオフである『三体X 観想之宙(かんそうのそら)』(早川書房)についても一言。
太陽系侵略をもくろむ三体文明の懐に、人類のスパイとして送られる雲天明がいかにして三体文明のもとで過ごし、愛する程心の前に現れたのか? シリーズ完結篇『三体III 死神永生』で描かれた事実の裏側などを描いた作品で劉慈欣を敬愛する中国新世代のSF作家・宝樹(パオシュー)によるものです。
三体自体は揺るぎない完成品なのですが、シリーズ終了後の三体ロスを埋めるべく宝樹がネットで公開したものが書籍化され、劉慈欣が公式スピンオフとして認めたのでした。
3つの本編の未完成の程度こそさまざまですが、続編や補作を読みたいという熱い読者が存在し、それに応えたと思える作品を紹介させてもらいました。

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中山篤志 弁護士

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