「遺族厚生年金」における男女格差の廃止
7月30日、会社員などが亡くなった後に、配偶者たちが受給できる「遺族厚生年金」について、厚生労働省が、現役世代で子どもがいない人の受給期間を5年間とするとともに、男女間で受給年齢に差があった点を廃止し、同等にする案を法制審議会に示したとの報道がありました。
現在、夫(男性)にのみ、遺族年金受給に「55歳以上」という年齢制限があります(厚生年金法第59条1項1号)。この点、過去に同じような規程を置く地方公務員災害補償法について大阪で争われた事例がありました。大阪地裁は2013(平成25)年11月25日に、この年齢格差は、すでにこれに先立つ2010(平成22)年に児童扶養手当が母子世帯のみならず父子世帯にも支給されるように変わるなどの社会の変化があったことを踏まえ「憲法14条1項に違反する」との判断を示しました。しかし、大阪高裁と、最高裁は、地裁の判断を覆してしまいました。理由はこうです。妻(女性)について夫(男性)のような年齢制限がないことには、男女の労働力率や賃金額の比較、今日の社会情勢のもとにおいても、妻については年齢を問わずに「一般に独力で生計を維持することが困難であると認め」て遺族年金は受給できるが、夫については年齢を問わずに「一般に独力で生計を維持することが困難であるとは認められない」といって、妻(女性)のみに年齢制限がないこの区別は、合理性を欠くということはできない、と判断したのです。
司法とは、多数派で構成される国会で策定される法律等で救済されない、少数者(故に弱者)を救済するのがその役割である、と大学の法学部で叩き込まれました。司法が「一般論」を理由として、多数派から漏れる少数者の救済をしなかったら、誰が救済するのでしょうか。遺族年金は、男女問わず、収入要件を設定し、現実に収入のある人には支給しない、ない人には支給する、という形にすればいいだけで、何も、「妻は一般的に稼げない、夫は一般的に稼げる。」という点だけで判断する必要はありません。現に、支給要件として一定の収入以下という収入要件(結構高額だと私は思う)が課されています。このような判断の根拠にあるのは、「夫は外で働き、妻は家に居て働かず家事・育児を担当する」という性別役割分業意識に他なりません。「女性には不利益がないからそのままでもいいのでは?」で済ませていては、「性別役割分業意識」があるが故の女性差別の方もなくなりませんから、そうもいえません。
このような男女差別が無くなるのは歓迎ですが、現状を激変させるとこれまた不利益を被る人も居ますから、両方に配慮しての制度改革が必要ですね。