山本一行 弁護士記事

2023年7月24日(月)

安全な製品(ノンアス)は外国向け!

 アスベストは、その粉じんを吸うと肺がんや中皮腫(胸膜などのがんで、肺がんよりも質が悪い)、石綿肺など悲惨な病気を引き起こします。その危険性は古くから指摘されており、欧米では1980年代、90年代に大幅にアスベストの消費量を減らしています。70年代と比べて多くの国で1割以下に消費量を減らしました。
 日本はどうでしょうか。日本ではアスベストは多く輸入に頼っていました。その輸入量は、1961年に10万トンを突破し、その後急激な右上がりのカーブを描き、1974年には35万トンに達しています。1988年には32万トンと、第2のピークを迎えています。その後も1990年代は10万トンを下回ることはありませんでした。一部の例外を残して石綿製品の製造が禁止されたのは、ようやく2006年になってからでした。
 この危険に対する鈍感さは情けないほどではないでしょうか。国の規制も、製造・販売企業の対応も、ひどいものだったと言えます。

 この点について、きわめて象徴的な出来事があります。
 建材メーカーでありアスベスト建材の製造・販売企業にA&Aマテリアルというのがあります。アサノや朝日石綿など、アスベストの老舗企業が合併してできた企業です。そのA&Aマテリアルの社史でも、「石綿の有害性指摘に対する反応は欧米の方が数段早かった」と日本の対応の遅さを認めています。場面は造船についてですが、各国で、石綿製品の使用規制を強化していったことが記載されています。
 ところが何と、そのうえで自社では、アスベスト代替製品であるマリンライトを1976年に完成させたものの、「受注第一号は日立造船で…建造中であったスウェーデン船であった」としているのです。しかも、これはスウェーデンの協会が船舶の無石綿化の通達を出しており、それに答えた最初のものだったというのです。
 社史には誇らしげに記載されていますが、つまりはアスベストの危険性を認識し、せっかく先進的に代替製品を完成させ販売可能になっても、それはアスベストの使用がいぜんとしてできていた国内ではなく、国外向けに販売、使用されたということなのです。

 いかに日本での規制が緩やかすぎたか、企業が国内での安全を無視してきたかを、示してあまりあるではありませんか。建設アスベスト訴訟では、国の責任が確定し、訴訟をするまでもない基金による被害救済ができるようになっています。私たちはさらに、これに続き、このような企業の責任を明らかにして、企業に基金に参加させ、補償をより充実させようと奮闘しています。ご支持ご支援をお願いいたします。

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弁護士紹介山本 一行

山本一行 弁護士

弁護士登録:1983年

石炭のじん肺訴訟にうちこんできました。その経験を生かして様々な事件に頑張りたいと思います。