「時効」について
時間がたてば権利がなくなってしまう「時効」という制度があります。債権(例えばお金を払えなどという請求権)については、権利を行使できると知った時から5年、権利を行使できる時から10年で権利が消えてしまいます。それ以前に裁判を起こすなどして時効を止める必要があるのです。
なお、債権の種類によっては時効期間が違うものもあります。例えば残業代請求権は3年です。また、不法行為(交通事故など)の損害賠償は損害および加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年ですが、生命、身体の損害については損害および加害者を知った時から5年に延ばされています。
これらは2020年施行の民法改正によって定められています。
時効は、「長く続いた事実状態を変えない」、「権利行使を怠っているものは保護しない」、「証拠がなくなるなどの問題を回避するため」という考え方のもとでの制度だとされています。
ここまでは、知識として頭に入れておいていただければと思います。
さて、私たちが争ってきたじん肺やアスベスト被害の損害賠償では、この時効問題にも苦労をしてきました。
これらの病気は、アスベスト粉じんなど粉じんを扱う仕事をやめてから、長い時間を経て始めて発症します。アスベスト被害のひとつである中皮腫は60年かかるような例もあるのです。じん肺裁判を始めたころは、仕事をやめたときが時効の始まりだという考え方が強かったのです。また、20年経てばその間に権利行使ができなくても債権は消えるという「除斥」という制度もありました(古い制度でもあり、ややこしくなるので詳しい説明は省略しますね)。
これではじん肺やアスベストの被害を償わせることができません。そこで、長崎北松じん肺訴訟をはじめとする数々のじん肺訴訟で、ひとつづつ問題を解決し前進を勝ち取ってきました。少しデフォルメした言い方をすれば、時効の始まりは、じん肺が始めて生じた時、じん肺がいちばん重症になった時、じん肺だけでなく合併症が生じた時、じん肺が原因で亡くなった時と、その時点が後へ、後へとなっていって被害を補償する範囲が広くなっていったのです。
この成果はほかの被害についても広がりました。ついには「除斥」の制度をなくし、「権利を行使できる時から」と明記し、生命、身体の被害についてはほかよりも時効期間を長くするという民法改正にも結びついたのです。さらに、現在でもアスベスト訴訟などで「権利を行使できる時」というのはいつなのかなどをめぐって、これを前進させる努力が続けられています。
なお、時効の制度のほかの特徴としては、「援用」といって時効を主張することをしないと、自動的には適用されないということがあります。時効といえるかどうかが頭をよぎったら、当事務所にご相談ください。