裁判所が変わるときは 社会も変わっているとき
裁判官が国を訴える!?
2024年7月2日のニュースのひとつに、津地裁の現職裁判官が国を相手に裁判を起こしたというものがありました。勤務地によって地域手当に格差があることが憲法79条6項(「最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。」)に違反するという内容のようです。前代未聞の異例な裁判だと思いますが、おかしいことはおかしい!という姿勢は素晴らしいです。この裁判官は、弁護士出身の裁判官で、だからこそ客観的な視点から、古い慣習(悪習)を打ち破ろうという気持ちが持てたのかもしれません。
国策でも国が敗訴する!?
2024年7月8日付の河西弁護士の記事で紹介されましたが、当事務所から河西弁護士、國府弁護士、そして私(星野)が弁護団に参加している旧優生保護法違憲国家賠償請求訴訟に関し、5地域(福岡は入っていません)の訴訟について、最高裁判所は、旧優生保護法が憲法に違反していたことを認め、国に対し被害者に対する賠償を命じる判決を出しました。国会が制定した「法律」が憲法に違反していると明確に示したのは、戦後13例目です。
ダメなものはダメ!こんなシンプルな言葉を最高裁が言ってくれるだろうかと心配していましたが、ちゃんと言ってくれました。
生活保護法の分野でも裁判所の姿勢に変化があります。
2013年から3年間かけて生活保護基準(生活扶助基準)が最大10%引き下げられました。この引下げの目的や手段が、生活保護法や憲法に違反しているのではないかという裁判が、全国でたたかわれています。
まだ最高裁判決は出ていませんが、高等裁判所や地方裁判所では、相次いで生活保護利用者である原告側勝訴の判決が出ています。問題となった生活保護基準の引下げは、生活保護法に違反しているという判断です。実は、国が基準引下げの根拠していた様々な数値は、保護基準を10%引き下げるために国が独自に創出した数字でした。そのことについて、各地の裁判所が、ダメなものはダメ!と言ってくれています。
社会の変化を良い方向へ
裁判所は、社会の変化を感じ取って、判断の方向性を変えていくことがあります。裁判所の姿勢がこれまでと変わったと感じられるときは、社会の方も変わってきていることが多いです。
いま、裁判所が、「人権」を前面に出すかのような判断を示すようになってきています。個人的な感想ですが、これまで裁判所は、「人権」よりも、「経済」や「政策」を重視し、それを法律的に「裁量」と言ってうやむやにする姿勢を多く示してきたように思います。それが変わりつつあると感じます。
裁判所を変えつつある社会の変化は何か。はっきりとはわかりませんが、裁判所が「人権」を押し出すようになった背景には、人権が他律的に守られなければ確保できなくなってきているという実態があるからかもしれません。もしそうであれば、裁判所が人権を守る判決を出せば出すほど、現実の社会では人権がどんどん危機にさらされているということを意味しているのかもしれません。
裁判所が「人権の最後の砦」の役割を果たすことはとても重要で、それこそ裁判所のあるべき姿勢なので歓迎ですが、一方で、それが現実社会で反対の意味を持つことになるとすればとても歓迎はできません。
現実社会でも、人権をまもる!という当たり前のことを当たり前のこととして、引き続き浸透させていくために、今後も、福岡第一法律事務所は奮闘していきたいと思います。