エッセイ 『ローマ人の物語』
皆さま、こんにちは。弁護士星野です。
塩野七生さんの歴史小説「ローマ人の物語」が好きです。
ローマの誕生から東西分裂後の滅亡まで、国の視点からではなく、ローマ人の視点からローマについて語られた長大な物語です。
文庫本だと全43巻ありますが、私は3回(部分的にはプラスアルファ)読みました。正直つまらないと思う部分もなきにしもあらずですが、ほとんどの物語がものすごく興味深く、手に汗握る展開で、自分がローマ人になってその現場に居るかのように入り込めます。
共和政時代のハンニバル戦記、カエサルの物語と共和政の終焉、アウグストゥスによる帝政移行、歴代皇帝とローマの拡大、ゲルマン人との終わりなき戦い、社会の混迷とキリスト教の拡大、イスラム国家との戦争、そして、ローマ帝国の分裂と東西ローマ帝国それぞれの終焉。こう書き出すだけでも情景が思い浮かんでドキドキします。
「ローマ人の物語」を読んでいると、ローマが共和政から帝政に転換することになった時期の社会の動き、または、ローマ国内でキリスト教が急速に拡大した混乱期の状況というのが、今の日本の状況、あるいは、今の世界の状況に通じるところがあるなあと感じます。
例えば、キリスト教が急拡大した時代に関して次のような一節があります。
「キリスト教を公認したコンスタンティヌス大帝と息子のコンスタンティウス帝の二人によって、キリスト教会に属する聖職者は免税と決まった。地方自治体の有力者層が、雪崩を打ってキリスト教化した真因は、これにあったのだ。
しかも後期のローマ帝国は、兵士と行政官僚の数を倍増している。そのうえ教会関係者という、非課税の階層をつくってしまった。さらに、ライン河やドナウ河に近く蛮族の襲来に見舞われつづけている地方では、それによる生産性の低下からくる税の減収が重なる。(中略)
この状態でもなお、皇帝は税制を変えない。その皇帝から税の減収の穴埋めを迫られた官僚が、特別税や付加税の名目をつくっては税を集めるようになったのも当然の帰結だった。
こうして、後期のローマ帝国の税制はシンプルどころか複雑化する一方になり、「広く浅く」も「狭く厚く」に変わってしまったのである。このような税制化で、私人に、公益に積極的にかかわる気持が生まれるであろうか。」(文庫38巻198頁)
今の日本。与党は特定の宗教団体とのかかわりが深く、宗教法人の原則非課税は固く守られています。その中で、防衛費は倍増となる一方、労働生産性の低さは長年の課題です。日本の税制のわかりにくさはご承知のとおりで、特別税、付加税も年々増えています。
ほかにもご紹介したい部分は多数ありますが、きりがないのでやめておきます。
「ローマ人の物語」は、歴史書ではなく、歴史小説です。歴史の学問的な観点からすれば、誤っている記載が多数あるそうですが、それはまあ小説ですからね。それでも、時代の流れや歴史の流れを感じることができますし、学びのよい契機になります。本当にお勧めです。
次は、塩野七生さんの「ギリシア人の物語」を読もうと思っています。