旧優生保護法違憲訴訟 ―福岡でも勝訴!
1 はじめに
令和6年5月30日、旧優生保護法違憲訴訟の福岡第1次訴訟で、原告らの請求を認容する判決が言い渡されました。このニュースは様々なメディアで取り上げられましたのでご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、改めてご紹介いたします。
2 旧優生保護法違憲訴訟とは
旧優生保護法とは、1948年に成立した法律で、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」ことを目的とし、当時の優生学・遺伝学の知識の中で遺伝性とされた精神障害・知的障害・神経疾患・身体障害を有する人を、優生手術(強制不妊手術)の対象とし、強制的に優生手術を受けさせることを認めた法律です。日本国憲法は1947年から施行されていますので、旧優生保護法は、幸福追求権(憲法13条後段)や法の下の平等(憲法14条)を定めている日本国憲法の下で成立しています。
旧優生保護法違憲訴訟は、この旧優生保護法の下で障害などを理由に優生手術を受けさせられたのは憲法違反だとして、全国の被害者らが国に損害賠償を求めた訴訟です。
3 全国の旧優生保護法違憲訴訟の状況
旧優生保護法違憲訴訟は、全国各地で提訴されていますが、当初は、除斥期間を経過しているという一事をもって原告の請求を棄却する判決が続いていました。なお、除斥期間とは、法律上定められた権利行使の期間制限で、この期間(20年)を過ぎると権利が消失するとされています。
しかし、2022年2月22日の大阪高裁判決が、除斥期間の適用をそのまま認めることは著しく正義・公平の理念に反するとして、初めて原告の請求を認容しました。この大阪高裁判決を皮切りに、多くの高等裁判所や地方裁判所で原告の請求を認める判決が言い渡されています。
そして、2024年5月29日、最高裁判所大法廷において、先行する5つの訴訟の弁論が行われました。私も当日は最高裁判所に行き直接弁論を傍聴してきましたが、原告らの訴えはとても心に響きました。同年7月3日には最高裁判所の判決が言い渡されることになっています。
4 福岡地裁令和6年5月30日判決
最高裁判所大法廷での弁論が行われた翌日の令和6年5月30日に、福岡地方裁判所で福岡第1次訴訟の判決が言い渡されました。判決は、既にお伝えした通り、原告の請求を認容するものでしたがその概要についてお話します。
⑴ 旧優生保護法は憲法違反であると判断
判決は、旧優生保護法の立法目的は、特定の障害又は疾患を有する者が一律に不良な存在であることを前提とする差別的な思想に基づくものであり、正当性を欠くとしています。また、旧優生保護法の目的達成のための手段も、身体に強度の侵襲を伴う不妊手術を行うという極めて非人道的なものであって、正当性も合理性もおよそ認められないとしています。その上で、旧優生保護法は、対象となる者の自己決定権を侵害するものであったことは明らかであるので、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、…最大の尊重を必要とする。」とする憲法13条後段に違反するとしています。
また、判決は、旧優生保護法が差別的な思想に基づくものであり、その目的及び目的達成のための手段のいずれも合理性を欠くことからすると、対象となる国民と、その他の国民とで異なる不合理な差別的取扱いを定めるものであるので、「すべて国民は、法の下に平等であって、…差別されない。」とする憲法14条に違反するとしています。
⑵ 除斥期間の適用は制限されると判断
判決は、まず、除斥期間も例外を一切許容しないものではないとしています。そして、例外が認められるのは、被害者による権利行使を不能又は著しく困難にする状況があり、しかも、その状況が、加害者の違法行為が原因であるなど、除斥期間を適用して権利が消滅したとすると著しく正義・公平に反する場合には、除斥期間の適用を制限することができるとしています。
そして、原告らが、長年優生手術を受けさせられたことに深い羞恥心や自責の念を抱える中で、優生手術を受けたことを公表した上、国に対して責任追及をすることに恐れや不安を感じていたことなどからすると、原告らが国を訴えることは不能又は著しく困難であった。しかも、憲法の趣旨を踏まえた施策を推進していくべき地位にあった国が、旧優生保護法を立法し、それを推進する施策によって強度の人権侵害を行っている上、現在までその態度を是正してこなかったのであるから、原告らは国を訴えることが出来なかったと認定しています。
その上で、原告らの国に対する損害賠償請求権について、除斥期間を適用し、損害賠償請求権を消滅させることは著しく正義・公平の理念に反するので、除斥期間の適用は制限されるとしました。
5 最後に
令和6年5月30日の福岡地裁の判決は、旧優生保護法が違憲であるとし、除斥期間の適用を制限し原告らの請求を認めた点で、高く評価できるものです。令和6年7月3日の最高裁判所大法廷での判決も、福岡地裁判決と同様またはそれ以上に原告に寄り添った内容になることを強く期待しています。みなさまも、是非、7月3日の最高裁大法廷判決にご注目ください。
また、福岡では、第2次訴訟も提訴していますので、こちらの裁判にも注目していただければ幸いです。