副業をはじめる際の注意点と残業代の考え方
1 はじめに
政府は働き方改革として2018年から副業解禁を提言しており、厚生省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」といいます。)を策定し(2022年に最新改訂)、会社に所属する正社員の副業を促進しています。
副業には、他の会社で働くことに限らず、YouTube配信や自作の商品の販売などの、自営での副業も含まれます。
もっとも、実際には、未だ副業を禁止している会社が多いことも事実です。
そこで、今回は、副業をはじめる際の注意事項や、副業をしている場合の残業代についてお話しをしたいと思います。
2 副業をはじめる際の注意点
⑴ 就業規則の確認
ガイドラインでは、原則的には副業を促進していますが、例外として①労務提供上の支障がある場合、②企業秘密が漏えいする場合、③企業の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合、④競業により、会社の利益を害する場合の4つの事項にあたる場合は副業を禁止できるとしています。
ただ、注意していただきたいのは、ガイドラインは法律による規制ではないということです。そのため、各会社は、就業規則によって独自のルールを定めることができます。就業規則とは、会社側が労働者の労働条件を定めるものです。未だに副業を禁じている会社があるのはこのためです。
就業規則によって届出が義務づけられているのに無断で副業を行ったような場合は、最悪、懲戒解雇になる可能性も生じます。そこで、副業をはじめる前には、自分が勤める会社の就業規則を確認することが必要です。
⑵ 会社側への確認
自分が勤める会社の就業規則を確認したところ、ガイドラインと同様の規定になっていたからといって、直ちに副業ができると考えることは危険です。
⑴で前述した4つの例外事項は、いずれも抽象的な文言が用いられています。そのため、あなたが禁止事項にあたらないと判断していても、会社が禁止事項にあたると判断することも考えられます。
そこで、このようなリスクを回避するためにも、会社に自分がやろうとしている副業が禁止事項にあたるかどうかを確認していた方が、万が一の場合のリスクを回避することができます。
3 副業をはじめた場合の残業代はどうなるのか
⑴ 労働時間の計算方法と請求先
労働者の労働時間は、原則として1日8時間(休憩時間を除いた実働時間)、週40時間までとされています(労働基準法第32条1項、2項)。(なお、副業が自営である場合は、自営として働いている時間は、労働時間とは考えません。)そうすると、副業をしている場合、残業代についてはどのように考えるのでしょうか。
法律では、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と定められています(労働基準法第38条1項)。そのため、本業と副業のいずれでも雇用契約を結んで従業員として働いている場合は、労働時間を通算して計算します。つまり、それぞれの労働時間を通算して1日の労働時間が8時間を超える場合は、残業代を請求できることになります。
そして、ガイドラインでは、①労働契約の締結の先後の順に所定労働時間を通算し、②所定外労働の発生順に所定外労働時間を通算することによって、それぞれの会社での所定労働時間・所定外労働時間を通算した労働時間を把握し、③その労働時間について、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分のうち、自ら労働させた時間について、時間外労働の割増賃金(労基法第 37 条第1項)を支払う必要があるとしています。
例えば、本業が1日8時間の労働契約であり、その後に副業として1日3時間の労働契約を締結した場合は、3時間分の残業代を副業の会社が支払うことになります。
また、本業と副業がそれぞれ4時間の労働契約である場合に、本業で3時間の残業を行った場合は、3時間分の残業代を本業の会社が支払うことになります。
この様に、残業代の請求先は、状況により変わります。
⑵ 労働時間の申告等が必要
ガイドラインでは、会社が従業員からの申告等により労働時間を確認するとしています。
つまり、従業員が会社に残業代を請求するためには、会社に対し、他の会社での所定労働日や所定労働時間などの労働契約内容の申告等をしておく必要があります。
4 最後に
国を挙げて進められている働き方改革ですが、本業の就業規則との関係や残業代の考え方等、分かりにくい点があります。
これから副業をはじめたいが本業との関係が心配だ、副業をはじめたけれど残業代の請求ができるのかわからないなどといった問題をお持ちの方は、一度法律事務所で相談をしてみたらいかがでしょうか。