賃貸住宅の原状回復とは
1 賃貸住宅の原状回復って入居時の状態に戻すことが必要?
皆さんは,借りていたアパートやマンション,戸建住宅などの賃貸住宅を退去するときに,家主(または管理会社)から原状回復を求められた経験があると思います。
では,原状回復とは何でしょうか。
ちなみにインターネットで「原状回復」と検索すると,不動産業者のホームページでは,「原状回復とは,アパートなど賃貸住宅の賃貸借契約が終了して借主(賃借人)が退去する際に借りた部屋を「本来あるべき状態」,つまり入居時の状態に戻して貸主(賃貸人)に返す義務のこと」などと解説をしているものもあります。
これは一見すると,自分が「入居した時点の状態」,例えば新築で入居したとすると,入居した新築の状態に戻さないといけないのではないかとも思われますし,実際,そのような請求をしてくる家主もいるかもしれません。
しかし,十年も二十年も住んだ後に,いざ入居時の状態に戻すとなると莫大な費用が発生しそうで,退去する際の請求が心配で,おちおち引っ越しもできないことになりかねません。
2 原状回復は,賃借人が借りた当時の状態に戻すことではない!
しかし,そのような考え方は間違いです。
原状回復とは,「賃借人の居住,使用により発生した建物価値の減少のうち,賃借人の故意・過失,善管注意義務違反,その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義されます(国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」)。
裁判例においても,2005(平成17)年に最高裁は,いわゆる経年変化(長年使ったことで設備が劣化すること)や通常の使用による損耗等の修繕費用はそもそも賃料に含まれており,借主に原状回復義務がないという判断を示していました。
そして,2020(令和2)年4月1日から施行された改正民法では,「賃借人の原状回復義務」について,「賃借人は,賃借物を受け取った後に生じた損傷について原状回復義務を負うが,通常損耗や経年変化については原状回復義務を負わない」ことが明記されました(621条)。
つまり,話を整理すると,賃貸住宅を退去するときの原状回復は,借りた当時の状態に戻すことではなく,通常使用していて痛んだり,長年使用したことで劣化したりしたものの費用を負担する必要はないということです。しっかり覚えていて下さい。
ちなみに,私も, 20年以上も住んでいた賃貸マンションの原状回復費として,経年劣化を度外視した全面的な設備の交換費用を家主側から請求された事件の裁判を担当していますが,借主の代理人として,経年劣化を十分考慮すべきことを強く主張し続けた結果,つい先日,家主側の請求額を6割減額させる判決をかちとりました。
ただし,この裁判でもそうでしたが,個別の事案において,どの部分が通常損耗や経年劣化にあたるのかといった事実認定や経年劣化の程度の評価などはそう簡単ではありませんので,こうした問題で悩んでいる方は,気軽に当事務所にご相談下さい。