毛利倫 弁護士記事

2023年3月7日(火)

「原発回帰」ではなく再エネ推進を!

1 福島原発事故から12年

東京電力福島第一原子力発電所で2011年3月11日に発生した未曾有の過酷事故からまもなく12年を迎えます。

12年経った今も,福島県を中心に数万人の人が避難生活を強いられていて,福島第一原発周辺の7市町村にまたがる約309平方キロメートルは,現在も,放射線量が高く将来にわたり居住を制限する「帰還困難区域」のままです。

事故を起こした原発の廃炉作業は遅々として進まず,原子炉格納容器内にある極めて高い放射線を出す燃料デブリ(メルトダウンで溶け落ちて固まった核燃料)の取り出し作業はまだ始まってもおらず,最長40年で廃炉を完了するという国の見解は,実現不可能な絵空事だと断じざるを得ません。

あの福島原発事故の甚大な被害と危険性を目の当たりにした国民は,国と電力会社の「安全神話」に騙されていたことに怒り,事故後一貫して原発再稼働反対の世論が多数を占めました。

本心では原発の再稼働をどんどん進めたい政府としても,世論に押され,「原発の新増設や建て替えは想定していない」と表明し,「原発の依存度を可能な限り低減する」方向での原発政策をとってきました。

2 福島の教訓を忘れ「原発回帰」に大転換する岸田政権

ところが,岸田政権は,2022年12月,「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」を開き,電力需給のひっ迫や脱炭素対策として,原発を「最大限活用する」とする新たな基本方針案を示し,2023年2月10日,「GX実現に向けた基本方針」を閣議決定しました。

具体的には,①原発の新規建設と②原発の運転期間の延長を認めるものです。

まず,①原発の新規建設は,廃炉を決定した原発の敷地内において建て替えを進めるとともに,建て替え以外の開発・建設は,各地域における再稼働等の今後の状況を踏まえて検討していくとしています。

また,②原発の運転期間の延長については,現行制度と同様,「運転期間は40 年,延長を認める期間は20 年」との制限は維持するとしながらも,一定の停止期間に限り追加的な延長を認めるとしており,原子力規制委員会による審査で停止していた期間を運転年数から除外し,「最大60年」超の運転を可能にするとしています。

これは,原発の新規建設をせず,運転期間は最大でも60年を上限としてきた福島原発事故後の政府の原発政策を大転換するもので,岸田政権が,脱・原発依存から,「原発回帰」に大きく舵を切ったものです。

しかも,これほどの重大な政策転換を,岸田政権は,国民に信を問うどころか,国会審議を経ることさえなく,内閣直轄の会議だけで決めてしまったのです。

福島の教訓を忘れてしまったとしか思えない暴挙であり,ロシアのウクライナ侵攻による電力ひっ迫に乗じた火事場泥棒的なやり方は許しがたいものです。

原発の運転延長を審査する当の原子力規制委員会の委員の中からも,60年を超えた原発の審査基準が不明確であるとして方針に反対する意見が出されました。

岸田首相は,建設から廃炉まで含めた原発のコストが他の電源と比較にならないほど高いこと,そして何よりも60年を超えて運転している古い原発は世界中に一つも存在しないことを果たして知っているのでしょうか。

3 再生可能エネルギーの推進こそ取り組むべきである

風力や太陽光,蓄電池,グリーン水素などの再生可能エネルギーは,驚異的なスピードでコストが低下し,それに伴って,爆発的な勢いで世界中に広がっています。

環境エネルギー政策研究所の飯田哲也氏は,「今や世界では,風力や太陽光等の再生可能エネルギーによって,電力のみならず全てのエネルギーを100パーセント低コストでまかなえるということが,再エネを研究している科学者の主流となっている」と明言しています。

そして,飯田氏は,「再エネは不安定電源であり,安定した原発をベースロード電源として維持すべきだ」とする日本のエネルギー政策について,「世界的にはベースロードは死語であり,原発はもはや論外である。一方,再エネは不安定電源ではなく自然変動電源であり,大型の原発や火力発電などと違って各地に分散しているので,多少の設備が壊れてもエネルギー供給に問題はない。再エネは,変動はしても蓄電池等と組み合わせれば不安定ではない。脱炭素にとどまらず,未来のエネルギー需給をまかなうためには,純国産の危険性のない再エネを推進すること以外にもはや選択肢はない」と断言します。

日本は,「再生可能エネルギーを主力電源化する」と表明していますが,実際は,原発を維持存続させたい本音があるため,再エネの拡大に本気で取り組んでおらず,むしろ再エネ拡大を阻害する政策をとっています。

人間が決して制御することができない危険な原発に頼らず,再生可能エネルギーを本腰を入れて推進していくことこそが,福島原発事故を経験した日本に今求められています。

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毛利倫 弁護士

弁護士登録:2006年

弱者救済に取り組む弁護士を目指し、マスコミから転身しました。ともに頑張りましょう!