電力カルテルの闇を暴け(第1回)
1 大手電力4社によるカルテル事件の摘発と公取委による命令
2023(令和5)年3月30日,公正取引委員会は,関西電力,中国電力,中部電力,九州電力の大手電力4社が,電気の小売供給に関し,お互いの営業地域における営業活動を制限したり,官公庁の入札で安値による電気料金の提示を制限したりする「カルテル」を結んでいたと認定し,違反行為を自ら申告した首謀者の関電を除く3社に対し,独占禁止法に基づく排除措置命令および課徴金納付命令を出しました。
課徴金の総額は1010億円を超え,過去最高となりました。
ちなみにカルテルとは,公取委の説明によれば,「複数の企業が連絡を取り合い,本来,各企業がそれぞれ決めるべき商品の価格や生産数量などを共同で取り決める行為」のことをいいます。
企業がカルテルを結ぶと,競争がなくなり,高い価格が設定されることになる結果,消費者は価格によって商品を選ぶことができなくなるばかりか,本来ならば安く買えたはずの商品を高く買わなければならなくなります。
カルテルは,商品の価格を不当につり上げると同時に,非効率な企業を温存し経済を停滞させるため世界中で厳しく規制されていて,日本でも,カルテルは「不当な取引制限」の一つとして独占禁止法で禁止されている違法行為です。
2 電力カルテル問題の背景
もともと電気事業法により,日本では,大手電力10社だけに自社の供給区域における電気の小売の独占が認められていました。
しかし,2016(平成28)年4月以降,電気の小売が全面自由化され,それまで利益を独占できた大手電力は,大手電力社間同士及び新電力等の新規参入業者との初めての価格競争にさらされるようになりました。
新電力各社があの手この手で顧客を獲得する営業活動を展開する中,関電や九電ら大手電力4社は,創意工夫によって競争に挑むのではなく,反対に,地域独占を維持し自社の利益を確保しようと画策し,自由競争を妨害するカルテルを結ぶ道を選択したのです。
今回のカルテルが行われた時期は,電力自由化が始まってわずか2年後のことです。
しかも,公取委からは,新電力への卸価格を高く設定したり,さらには電気の卸売市場への供給量を減らし市場価格を引き上げる市場操作をしたりしていた実態までが指摘されていて,多くの専門家からは,電力自由化を崩壊させる極めて悪質な行為であると厳しく非難されています。
こうした違法なカルテルに大手電力が手を染めた背景には,福島原発事故後も,莫大なコストがかかる原発に依存し続ける電力会社の経営体質自体に大きな問題があることをけっして忘れてはなりません。
3 取締役に対する責任追及の提訴請求
2023(令和5)年6月7日,私たちは,電力カルテルを摘発された大手電力4社の株主の代理人として,会社に対し,カルテルに関与し,あるいはこれを防止する措置を怠った取締役らを被告として,損害賠償を求める訴えを提起するよう一斉請求しました。
この株主による提訴請求というのは,会社法に定められた手続で,提訴請求から60日以内に会社が提訴しない場合,提訴請求した株主は,会社に代わって,取締役に対する株主代表訴訟を自ら提起することができます。
私が直接担当する九電に対しては,合計17人の株主が,25人の新旧取締役の責任追及として,約260億円の損害賠償請求をするよう会社に求める提訴請求を行いました。
最初の提訴請求時に福岡市で開いた記者会見には,十数社のメディアが集まり,当日夕方のニュースで報道されるなど,関心の高さがうかがえ,その後の九電の対応が注目されました。
4 九電らの不提訴表明と株主代表訴訟へ
ところが,株主の提訴請求に対する電力各社の対応は,期待外れのものでした。
中国電力を除く九電,関電,中部電力の3社は,2023(令和5)年8月9日までに取締役の責任追及の訴えを起こさないことを表明しました。
中国電力だけは,8月3日,提訴請求された22人の新旧取締役のうち,前会長や前社長らわずか3人の元取締役のみ責任を追及する訴えを起こすと発表しましたが,残り19人については同じく責任追及をしないとしています。
九電に関していえば,社内で調査した結果,公取委が認定したカルテルが行われたとは認められないとして,事実関係を全面的に争う意向を明らかにし,近く公取委の命令に対する取消訴訟を提起する方針であり,カルテルの認定自体を全面否認する姿勢を鮮明にしています。
しかし,私たちは,九電の言い分をそのまま受け入れることは到底できないと考えており,事実関係の調査等をさらに進めた上で,九電に代わって,今回のカルテルに責任を負うべき取締役に対する株主代表訴訟を提起する方針です。
電力カルテルの闇を明らかにする闘いのその後の展開については,また次回以降定期的に報告させていただきますので乞うご期待を!