毛利倫 弁護士記事

2024年7月22日(月)

生命保険の死亡保険金の受取人について

生命保険の死亡保険金とは

 生命保険は,保険契約を締結して保険料を支払う人を「契約者」,死亡や病気・ケガなどが生じた場合の保険の対象となる人を「被保険者」,保険金を受け取る人を「受取人」といい,「契約者」が保険契約を締結する際,「被保険者」と「受取人」を誰にするか決めます。

 生命保険には,数多くの種類がありますが,そのうち,「被保険者」が死亡した場合に支払われるのが死亡保険金です(保険法では死亡保険契約といいます)。今回は,この死亡保険金の「受取人」に関する法的問題を少し説明します。

 死亡保険金については,「契約者」と「被保険者」,または「契約者」と「受取人」は同じ人でもかまいませんが,死亡保険金は,「被保険者」が亡くなったことにより支払われるものであり,死亡した「被保険者」が保険金を受取ることは不可能なので,「被保険者」と「受取人」は同じ人にすることはできません。

 もっとも,保険契約の締結時に,保険の対象となる「被保険者」は必ず定めないといけませんが,「受取人」については,具体的に指定せずに「相続人」とする扱いができる場合があります。

 なお,相続人が誰になるかは民法で定められていて,相続人に関する記事は,詳しくは拙稿の2023年6月26日付け弁護士記事「遺言書は作成した方がいいが,でも内容にはご注意を!」https://www.f-daiichi.jp/blog/tomo_mouri/5053/,あるいは拙稿の2024年6月9日付け弁護士記事「相続人がいない場合(相続人不存在)でも相続財産を取得できる場合とは」https://www.f-daiichi.jp/blog/tomo_mouri/5360/ をぜひご覧下さい。

死亡保険金の受取人は誰か

 では,死亡保険金の受取人は具体的に誰になるのでしょうか。

(1)受取人が具体的に指定されている場合

 まず,契約者が保険契約時に死亡保険金の受取人を具体的に指定している場合,その指定された人が死亡保険金の受取人となります。これは当たり前ですね。

 また,保険契約時に指定した受取人は,死亡保険金の支払事由の発生時までは,被保険者の同意があれば,いつでも変更することができるし,遺言によっても変更できます。受取人を複数指定することも可能です。

 ちなみに,この場合,指定された受取人が被保険者の相続人であった場合でも,受け取る死亡保険金は,相続財産となるのではなく,保険契約に基づいて支払われる受取人の固有の財産となるため,たとえ受取人が被保険者の相続放棄をしたとしても,死亡保険金を受け取ることができます。

(2)受取人が具体的に指定されていない場合

 では,保険契約時に契約者が受取人を具体的に指定せず,被保険者が亡くなった場合,死亡保険金の受取人はどうなるのでしょうか。

 受取人を被保険者の「相続人」とだけ指定した場合には,特段の事情がない限り,法定相続分の割合により,死亡保険金を相続人で分配することになります。
 
 受取人を全く指定していない場合,絶対的なルールは存在しませんが,最も一般的な生命保険の場合の受取人は「被保険者の相続人」になります。ただし,相続人が複数いる場合には,民法に規定された相続割合ではなく,一般的に均等の割合で死亡保険金を受け取ることとなります。

 受取人を具体的に指定していたが,その受取人が,被保険者より先に死亡し,受取人の変更手続をしないまま,被保険者が亡くなった場合,一般的に受取人死亡時の「受取人の相続人」が死亡保険金の受取人になります。相続人が複数いる場合には,民法に規定された相続割合ではなく,一般的に均等の割合で死亡保険金を受け取ることとなります。
生命保険会社によっては,受取人の相続人ではなく,「被保険者の遺族」と定めている場合もあります。

 このように,被保険者が死亡した時に受取人が具体的に決まっていない場合,必ずしも絶対的なルールはなく,保険会社ごとの契約約款により,受取人が異なってきますし,受取人の対象となる人が複数いる場合,受取人が誰であるかを巡り,争いになるケースもあります。

 私がごく最近依頼を受けて解決した保険金請求の事例を少しご紹介します。

3 福岡県民共済の死亡共済金の解決事例

 福岡県民の約6人に一人が加入しているとされる都道府県民共済グループの「福岡県民共済」は,営利を目的としない共済事業を行う生活協同組合ですが,細かい点はさておき,民間保険会社の生命保険と実質同じような役割を持つ事業を行っています。
 
 ただし,使用する用語が異なり,福岡県民共済の場合,生命保険ではなく「生命共済」,死亡保険金は「死亡共済金」,契約者は「加入者」,被保険者は「被共済者」と呼びます。

 被共済者(被保険者)と同一人である加入者(契約者)が亡くなった場合,生命共済(生命保険)の死亡共済金(死亡保険金)の受取人は,共済独自の規定となっていて,加入者の死亡時点における以下の順序で上位の人だけとなります。

①加入者の婚姻届出のある配偶者
「加入者と同一世帯に属する」加入者の②子→③孫→④父母→⑤祖父母→⑥兄弟姉妹
「加入者と同一世帯に属さない」加入者の⑦子→⑧孫→⑨父母→⑩祖父母→⑪兄弟姉妹
⑫加入者の甥姪

 この場合において,「加入者と同一世帯に属する」とは,「住民票によって加入者と同一住所に居住していると認められることをいうが,加入者と住居を異にしていても,それが就学,療養,勤務などの事情によると判断されるときは,同一世帯に属するものとする」とされています。

 生命共済の死亡共済金受取人に関するこの規定の趣旨は,私なりに分析すると以下のとおりです。
【原則規定】
加入者と法律婚にある配偶者を一番にし,それがいない場合には,法定の相続順位よりも,加入者と同一世帯に属するかどうかを優先させ,かつ,同一世帯に属するかどうかの基準を住民票により形式的に判断することを基本とする。
【補充規定】
就学,療養,勤務などの諸事情によって形式的には住民票は違うが実質的には同一家計を営んでいると認められる場合には同一世帯に属するものと判断することにより,加入者と一緒に生活している実態のある親族を,加入者と生活実態のない親族よりも優先させる。

 私が依頼を受けた事例は,次のようなものでした。

 加入者は40代の独身。20年以上前に離婚した元妻との間に子どもが一人いるが,離婚時以来,子どもとは音信不通。加入者は,前の離婚後一度も婚姻せず,両親と同居。しかし,仕事の都合で両親と住民票を別にしていた状況で死亡。両親が,福岡県民共済に加入者の死亡共済金を請求したが,県民共済は,受取人は子どもであるとして死亡共済金の支払いを拒否した。加入者の保険料(掛け金)も全て負担していた両親は,納得がいかず,死亡共済金の請求を巡る交渉事件を私に依頼をした。

 この事例で問題となるのは,加入者の両親が,「④加入者と同一世帯に属する加入者の父母」に該当するのかどうか,それに該当すれば,「⑦加入者と同一世帯に属さない加入者の子」より上位となり,死亡共済金の受取人となります。

 そこで,私は,加入者と両親の住民票が別になっている事情,加入者と両親が実質的に同一家計を営んでおり一緒に生活している実態があったことを,加入者の若い頃からの職歴や生活状況,加入者の仕事上の重要書類や郵便物の住所,加入者の収入状況などをもとに詳細に立証した結果,福岡県民共済は,私の依頼者である加入者の両親を「加入者と同一世帯に属する加入者の父母」だと認定し,無事に死亡共済金が両親に支払われました。

 生命保険に限らず,損害保険や火災保険,自動車保険などを巡り,保険金が支払われないとか,保険金額が納得できないといった紛争は少なくありません。

 保険に関する事件は,専門的な法律知識が必要な場合も多いので,保険に関する問題でお困りの方は,まずは当事務所に気軽にご相談ください。

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弁護士紹介毛利 倫

毛利倫 弁護士

弁護士登録:2006年

弱者救済に取り組む弁護士を目指し、マスコミから転身しました。ともに頑張りましょう!