電力カルテルの闇を暴け(第2回)
大手電力4社によるカルテル事件の摘発
2023(令和5)年3月30日,公正取引委員会は,関西電力,中国電力,中部電力,九州電力の大手電力4社が,電気の小売供給に関し,お互いの営業地域における営業活動を制限したり,官公庁の入札で安値による電気料金の提示を制限したりするカルテル(複数の企業が連絡を取り合い,本来,各企業がそれぞれ決めるべき商品の価格や生産数量などを共同で取り決める違法行為)を結んでいたと認定し,違反行為を自ら申告した首謀者の関電を除く3社に対し,独占禁止法に基づく排除措置命令を出すとともに,課徴金の額としては過去最高となる3社合計で1010億円の課徴金納付命令を出しました。
この件については,カルテル事件の摘発後,電力会社の株主の代理人としてカルテルに関与した取締役に対する損害賠償請求訴訟を提起するよう会社側に求めたこと,しかし,会社側が提訴請求を拒否したため,やむを得ず株主代表訴訟を提起する方針であるという時点までの経緯について,既に一度記事を書きました。
詳しくは,拙稿の2023年8月20日付け弁護士記事電力カルテルの闇を暴け(第1回)をぜひご覧下さい。
2023年10月12日九電カルテル株主代表訴訟の提起
さて,今回は,電力カルテルの闇を明らかにする闘いのその後の展開について報告します。
そもそも株主代表訴訟というのは,取締役が会社に損害を与える行為をしたのに,会社がその取締役の責任を追及しない場合,株主が,会社に代わって,取締役の責任を追及する訴訟を提起することができるという会社法に規定された制度です。
九州電力は,株主の提訴請求に対し,カルテルが行われたこと自体を認めず取締役に対する訴えを起こさない方針を決め,反対に,公正取引委員会の認定の方が間違っているとして,2023年9月29日,公取委による排除措置命令及び課徴金納付命令の取消訴訟を起こしました。
かくして,2023年10月12日,私たちは,九電の株主11人の代理人として,カルテルに関与し,あるいはこれを防止する措置を怠った九電の池辺社長や瓜生会長ら現旧取締役8人を被告とし,28億6223万円の損害を会社に賠償するよう求める株主代表訴訟を福岡地方裁判所に提起したのです。
ちなみに,この日は,中部電力や中国電力の取締役に対する株主代表訴訟も名古屋地裁と広島地裁にそれぞれ一斉に提訴されました。
九電カルテル株主代表訴訟については,当日,提訴行動や提訴後の記者会見を行いましたが,地元のテレビや新聞はほぼ全社が取材に来て,夕方のニュースや翌日の紙面で大きく報道されました。
2023年10月12日,福岡地裁に訴状や証拠を提出する原告と弁護団
公取委が認定した九電カルテルの概要
では,公取委に摘発された九電のカルテルはどのようなものであったのか,公取委が認定した事実に基づいて説明します。
カルテルは,九電と関電との間で,官公庁に販売する電気の入札に関して行われました。
官公庁とは,国の省庁や県庁,市役所,裁判所などのことで,入札で最も安い電気料金を提示した業者から電気を購入する仕組みです。
もともと電気の小売供給は,大手電力会社10社が地域独占で営業していましたが,電力自由化により,他社の営業地域への進出や,新電力の参入などによる価格競争が始まりました。
こうした中,関電は,2017(平成29)年12月頃,「仁義切り」と称して,九電管内の官公庁の入札に参加する意向を九電に伝え,実際に九電管内の官公庁の入札に参加しました。
これをきっかけに,両社は,お互いに相手の営業地域の官公庁の入札に参加して安い価格の電気料金を提示するようになり,その結果,電気料金の価格が下落しました。
そこで両社は,電気料金の価格の下落を防止して自分たちの利益を確保する必要があると考えました。
両社は,2018(平成30)年8月以降,役員級の者が面談するなどして,遅くとも2018年10月12日までに,電気料金の価格の低下を防止して自社の利益の確保を図るため,お互いに,相手の営業地域で実施される官公庁の入札で,安い価格で電気料金を提示することを制限するという合意をしました。
そして,この合意に基づき,
①関電は,官公庁の入札で提示する最安値を引き上げ,これを九電に伝えました。
②それを聞いた九電は,関電が提示した電気料金の水準を踏まえ,自社が入札で提示する電気料金を引き上げました。
③また,九電は,関電が九電管内で契約した規模に応じて,関電管内で契約する規模の上限を設定するなどしました。
両社は,部長級の者が面談するなどして,お互いに相手の営業地域で,安値の入札をしていないかを確認するなどして合意の実効性を確保し,その結果,両社の営業地域に所在する官公庁の電気料金の価格水準は引き上げられました。
両社が,お互いの営業地域で安値入札の制限を合意することにより,公共の利益に反し,電気の小売供給の取引分野における競争を実質的に制限していたとして,公取委は,独占禁止法違反のカルテルを認定したのです。
株主代表訴訟の経過
九電カルテル株主代表訴訟は,2024年2月15日に第1回口頭弁論期日が開かれました。
弁護団を代表して私が意見陳述を行い,「首謀者の関電がカルテルの事実関係を完全に認め,九電自身も公取委の調査に協力することで課徴金減免制度の適用を申請して課徴金30%を減額してもらう恩恵を受け,さらに,再発防止策を国に提出してもいる。それなのに,九電がカルテル合意をしていないということはおよそ考えられない」と訴えました。
また,原告の株主を代表して深江守さんが意見陳述を行い,電力自由化が始まってわずか2年あまりで起きた今回のカルテルは,大手電力による新電力つぶしであり,卸電力市場の価格操作など悪質な行為により九電らは不当な利益を上げたと問題の本質を厳しく批判しました。
この訴訟には,カルテルを行った九電が,被告ら役員の責任を追及するどころか,反対に被告らをサポートするため被告側に補助参加をし,訴訟の場においても,被告側は九電の代理人(東京の超大手法律事務所の弁護士)がほぼ全ての指揮をとっています。
訴訟は,第2回期日以降,争点を整理するための弁論準備手続(原則非公開での審理)に付され,この間,九電からは,カルテル合意がないという主張が出され,それを立証するためとして,一定の証拠が提出されました。
しかし,九電が提出した証拠を原告側からの視点で評価すると,関電と九電が,新電力をつぶし,お互いの営業区域の利益を死守するためにかなり突っ込んだ協議をしていることがはっきりとわかり,カルテル合意を認定した公取委の判断は極めて正当だと思われます。
私たちは,さらにカルテル合意を証拠上明らかにするため,九電の取締役会議事録閲覧謄写の申立てをするなど,いまだ提出されていない重要証拠を獲得するための取り組みも行っています。
電力カルテルの闇を明らかにする闘いはまだまだ道半ばですが,必ずや闇を暴き出す意気込みで頑張っておりますので,ぜひ皆様のご支援をよろしくお願いいたします!