特別縁故者に対する相続財産分与について
1 はじめに(相続人がいない場合の法律関係のおさらい)
日本の民法では,配偶者は常に相続人となりますが,配偶者とともに相続人となる人は,第1順位は子ども(子どもが先に亡くなっていれば孫が代わりに相続),第2順位は,子どもや孫がいない場合の父母(父母がともに亡くなっていれば祖父母),第3順位は,父母や祖父母もいない場合の兄弟姉妹(兄弟姉妹が先に亡くなっていれば甥や姪が代わりに相続)に限定されています。
これを法定相続といい,日本では,これ以外の人が相続人になることはできず,配偶者も子どもや孫もなく,父母や祖父母,兄弟姉妹もいない場合,相続人が存在しないことになります。
相続人がいない場合(相続人の不存在)の法律関係については,既にこの弁護士記事に書いたことがあるので,詳しくは,拙稿の2024年6月9日付け弁護士記事「相続人がいない場合(相続人不存在)でも相続財産を取得できる場合とは」https://www.f-daiichi.jp/blog/tomo_mouri/5360/をぜひご覧下さい。
ここで,少しだけおさらいをすると,遺言書も作成せずに亡くなった人に相続人がいない場合,亡くなった人の財産(相続財産)がどうなるかというと,まず初めに,相続財産を管理する人である「相続財産の清算人」を選任し,相続財産清算人は,相続債権者(例:亡くなった人にお金を貸していた)がいた場合には,その相続債権者に対して弁済をしますが,相続債権者に対する弁済もする必要がないようなケースの場合,相続財産は,国庫に帰属する,すなわち,相続財産は,誰にも取得されないまま国のものとなってしまうことになります。
しかし,それでは,相続人ではないけれども,亡くなった人と一緒に暮らしていたり,とても親しい関係にあったりした人がいる場合,不合理で気の毒なことになり,仮に,亡くなった人が亡くなる直前に自分の相続財産をどう処分したいか尋ねられたとした場合,国庫に帰属させるくらいなら,そうした親しい関係にあった人に自分の財産を渡したいという意向を示すのが通常の当事者の意思ではないかと思われます。
そこで登場するのが,今回のテーマである「特別縁故者に対する相続財産分与」という制度です。
2 特別縁故者に対する相続財産分与とは
「特別縁故者に対する相続財産分与」とは,民法958条の2に定められた制度で,相続人や相続債権者らがいない場合,相当と認めるときは,家庭裁判所は,亡くなった人と生計を同じくしていた者,亡くなった人の療養看護に努めた者,その他亡くなった人と特別の縁故(えんこ)があった者の請求によって,これらの者に,相続財産の全部または一部を与えることができると定めています。 特別の縁故とは,亡くなった人と特別に深いつながりがあったという意味です。
特別縁故者として相続財産分与を求める具体的な請求の手続は,まずは相続財産清算人の選任をする必要があり(利害関係人として自ら選任の請求をすることができます),選任された相続財産清算人が,相続人を捜索するための公告で定められた期間内に相続人である権利を主張する者がなかった場合,同期間の満了後3か月以内に,亡くなった人の最後の住所地の家庭裁判所に対し,相続財産分与の家事審判を申立てていくことになります。
3 私が最近獲得した「特別縁故者に対する相続財産分与」の審判
私が代理人としてかかわった事案で,先月,特別縁故者に対する相続財産分与を認める審判を獲得しましたので紹介いたします(既に確定)。
申立人ら2人は,相続人不存在で亡くなった人(以下「本人」)のいずれも父方の叔父にあたりますが,亡くなった本人は,幼い頃から重度の知的障害があり,その両親は,本人の世話や介護に忙殺されていたことから,長年にわたって,申立人らは,その両親の援助をし,特に父親(申立人らの実兄)が亡くなった後は,体調を崩して介護や世話が困難になった母親に代わって本人の世話をし,母親と本人が相次いで亡くなった後は,葬儀や供養を執り行うなどしました。
この事案について,福岡家庭裁判所は,申立人らが特別縁故者に該当するかどうかについて,以下のように判断しました。
「申立人らは,昭和53年以降,両親の負担を軽くするため,本人宅を月に数回訪ね,本人の世話を手伝うなどしたほか,本人の世話に忙しい父親のため,同人の分も実家での作業を行い,父方祖父母の面倒を見るなど,直接または間接的に本人の生活を支援してきたことが認められる。
また,申立人らは,父親が死亡した頃以降は,母親と本人の通院の際の送り迎えや買い物の手伝いを日常的に行い,本人が施設等に入る際に手続の援助等をするなど,それまで以上に本人のために密接に援助してきたことが認められる。さらに,母親の入院の際には,手続の援助等のほか,同人の話し相手となって精神的に支え,父親や母親が死亡した際には,本人に代わり,協力して通夜や葬儀等を行うなど,本人に代わり同人の両親を支えるなどしてきたことが認められる。
このような事情に加え,本人の死亡後も,申立人らが本人の葬儀等を行い,同人宅の清掃をするなどしていることも考慮すると,申立人らは,本人と精神的・物質的に密接な関係にあった者といえ,「本人と特別の縁故があった者」(民法958条の2第1項)に該当するものと認められる。」
特別縁故者に該当すると認められると,次に問題となるのは,亡くなった本人の相続財産の全部を分与するのか,それとも一部を分与するのかという点です。
この点について,福岡家庭裁判所は,以下のように判断し,相続財産の全部分与は認めず,約6割の分与を認めました。
「申立人らの関与の内容,程度からすると,通常の親族関係を超えるといえるほど濃密な縁故関係にあったといえるのは,父親が死亡した頃以降の約3年間程度であったというべきであるから,申立人らに対し,相続財産の全額を分与するのは相当ではない。
もっとも,長期にわたり直接または間接的に本人の生活を支え,最後の約3年間は濃密な縁故関係にあったといえることのほか,本人の死後も葬儀等を執り行うなどしたことも考慮すると,申立人らに対し,相続財産からそれぞれ●●万円ずつ分与するのが相当というべきである。」
特別縁故者に対する相続財産分与は,事案そのものがあまりなく,さらに相続財産の6割以上が認められる審判は,それほど多くないため,参考になればと思い紹介いたしました。
いずれにしても,特別縁故者に対する相続財産分与の申立てをする場合,特別の縁故関係があることをきちんと証拠で明らかにする必要があるし,申立期間も限られており,ご自身で申立てることは難しい場合も多いと思います。
相続問題でお困りの方は,まずは当事務所に気軽にご相談ください。