國府朋江 弁護士記事

2023年2月7日(火)

障害者権利条約をご存じですか

■障害者権利条約って?

みなさんは「障害者権利条約」をご存じでしょうか。

障害者権利条約は、2006年12月13日に国連総会において採択(これでいきましょう!と決めること)、日本は2007年に署名(条約に参加しようと思います、と意思表明すること)、2014年1月に批准(国が正式に条約に同意すること)、同年2月に発効(条約が国内法として正式に効力をもつこと)しました。

権利条約の条文については、障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約)|外務省 (mofa.go.jp)

こちらの外務省のHPに掲載されています。権利条約の一部の条文には、「一般的意見」という解釈を示した文書があり、インターネットで検索すると出てきます。

障害者権利条約は、Nothing about us without us!(私たちぬきに私たちのことを決めないで)というスローガンの下で、障害のある当事者参画の下で作成された条約です。

第1条には目的規定があり、「この条約は、全ての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保護し、及び確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的とする。障害者には、長期的な身体的、精神的、知的又は感覚的な機能障害であって、様々な障壁との相互作用により他の者との平等を基礎として社会に完全かつ効果的に参加することを妨げ得るものを有する者を含む。」と定められています。

「全ての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進」とあり、障害のある人が保護される客体ではなく、人権の主体である!人権・基本的自由を他の者と平等に享有するのだ!ということが掲げられています。

障害のある人も人権の主体?そんなの当たり前じゃない?と思われるかもしれません。しかし、それを頭ではわかっていても、実際の日常生活の様々な場面では、わかられていないと感じることが多々あります。

「何かあったら危険」「危ないからやめといたほうがいい」「無理なんじゃない?」これらは、いずれも障害のある人のためだから・・・という名目の下で、勝手に無理だと決めつけられるときの常套句です。

重度の障害のある人が一人暮らしをする場合、遊園地で車椅子の人がジェットコースターに乗る場合、全盲の人がマンションを借りる場合、そんな勝手な決めつけが顔を出します。

本当に危ないか、客観的な事実をもとに判断せずに、雰囲気、思い込みで決めつけていませんか?上の例は、いずれも、一般的に危ないとはいえないのです。障害のない人が普通にできていることを、危ないなどの理由をつけて、させてもらえないのは、その人の機会を奪っているのです。

だからまず大事なのは、「私たちぬきに私たちのことを決めないで」なのかなと思います。

■建設的対話と総括所見

障害者権利条約関係では、コロナ騒ぎで延び延びになっていましたが、昨年8月にスイスのジュネーブで、国連の障害者権利委員会が日本の政策を点検する、「建設的対話」という場が設けられました。

権利委員会(全世界から、当事者委員が集まっています)が、日本の政府からだされた、「権利条約を実現するために、こういう政策をがんばっています!」という政府レポートと、日本の民間団体(障害者団体もそうですし、私も所属する日弁連も!)が出した「いやいや、こんなに問題点がたくさんありますよ」というパラレルレポートを見たうえで、日本政府に質問・回答を求めるものです。建設的対話にさきだって、委員に対し、日本の障害者団体や弁護士も「ここに注目してください」とアピールをしに行っておられました。私は日弁連のパラレルレポートの9条を担当しました。パラレルレポートがなにかもわからない中で、いろいろ調べて書きました・・・

その結果、昨年9月9日に出されたのが「総括所見」です。その中には、権利委員会からの「ここをこのようにしてください」という勧告・要請がたくさん示されています。

総括所見は英語で示されるので、そのままだと(私は)読めません。障害者団体が、仮訳というのを出してくれていましたので、それを参照させていただいていたところ、最近、政府から仮訳が出されました。100448721.pdf (mofa.go.jp)

■総括所見のポイント

全項目にわたって指摘がなされているのですが、私が重要だと思うポイントは以下のところかなと思います(これは、私の主観です。他の点が重要ではないという意味ではありません。権利委員会が「強く要請」している点)

・勝手に決めるな(父権主義的アプローチはいけない)

・医学モデルの要素を排除せよ(障害は、本人の機能障害だけで見るのではなく、社会の壁との間で生じるものである。例えば、障害者手帳の取得、障害者総合支援法に基づく給付は、こういう障害の程度の時に支給するという決め方になっており、制度からもれて困っている人がたくさんいます)

・精神障害のある人の強制入院や強制治療を廃止すること(日本は世界の中でも精神科病床の数が多く、入院日数もとても多いです。)

・障害のある人が地域で自立生活をするための支援体制の強化(脱施設。施設に入れることで障害のある人を分離するな。)

・分離教育(現在、日本で行われている特別支援学校、特別支援学級での特別支援教育のこと)をやめろ(教育分野での分離をやめろ)

日本では、障害のある人が、教育の場でも、地域生活の場でも分離されていて、見えなくなっています。

「養護学校」や「ひまわり学級」(名称はいろいろでしょうが)みたいなもの、ありましたよね?そこにいる子は、自分たちと違う子なんだ、って思っていませんでしたか?

精神科病院に入院していたくなくても、地域で生きるための制度が整っていないので、外に出られない、強制的に入院させられていて、出られない。

重度の身体障害があり、家族では面倒が見られないからということで、病気でもないのに、家じゃなくて、病院に何十年も入院し続けている筋ジストロフィーの人。

そういう障害のある人は、障害があるから、仕方ないんだって思っていませんか?

そういう考え方を改めてください、というのが、権利条約であり、総括所見が指摘していることです。

弁護士登録をしてから10年間、障害のある人の権利を守る仕事をしたいと思ってやってきましたが、総括所見を読むことで、学びが足りないことに反省するばかりです。

なぜいきなりこんなテーマを取り上げたかというと、年があけてから、この関係のレジュメを作ったり、企画側として準備することが多く、学んだことをとりあげようと思ったのでした。

 

 

法律相談Q&A

法律相談Q&A

法律相談
予約はこちらに

お気軽にお問合せください

092-721-1211

※お掛け間違いのないようにお願いします。

平日9:30~17:00
土曜9:30~12:00


平日、土曜日午前中
毎日実施中

初回法律相談予約専用Web仮予約はこちら

カテゴリー

弁護士紹介國府 朋江

國府朋江 弁護士

弁護士登録:2012年

京都出身で、福岡には全く地縁はありませんが、福岡の魅力に惹かれてやってきました。
自分は弁護士に関わり合いになることはない・・・そう思われる方が大半だと思います。
しかし、労働、離婚、相続、交通事故、近隣問題といった様々な分野で、自分が望むと望まざるとにかかわらず、紛争の当事者となってしまうことはたくさんあります。
争いごとに巻き込まれると、それだけでとても精神的にも肉体的にも大きな負担がかかることになります。
そのため、私は、ご依頼者の気持ちに寄り添ってお話を聞くことに力を入れています。また、どのようにすれば最もご本人にとっての利益になるのか、法的側面から検討するとともに、ご本人の負担を軽減し、次のステップへと進んでいただけるようにしたいという思いから、ご提案をさせていただいています。