11月から施行された「フリーランス新法」について
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」の施行開始
2023年4月28日、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(以下「フリーランス新法」あるいは単に「法」という。)が成立し、今年2024年11月1日から施行されています。フリーランスの方々の権利を守る上で積極的に活用されるべきですが、しかし、以下に概観するとおり十分な保護とはなっておらず、フリーランスの方々の更なる保護のためには一層の改正が求められます。また、この法律がいわゆる偽装フリーランスを正当化することにつながらないよう警戒が必要です。
フリーランス新法が偽装フリーランスの正当化につながらないよう警戒を要する
⑴ 偽装フリーランスの問題
今日、本来は労働関係法令の保護の対象となる「労働者」に該当するにもかかわらず、「労働者」として扱われていない、いわゆる偽装フリーランスが多数存在しています。特に、今日では、新しいテクノロジーを活用した非労働者化はいっそうあからさまに、かつ巧妙に行われているといわれています。
⑵ この法が偽装フリーランスを正当化する口実に使われないよう警戒を要すること
偽装フリーランスの問題への日本の行政・司法・立法における対応は大変遅れています。そのような中、フリーランス新法が偽装フリーランスを正当化する口実に使われないよう極めて警戒を要します。
⑶ 参議院内閣委員会(令和5年4月27日)における附帯決議
参議院内閣委員会は「労働関係法令の適用対象外とされる働き方をする者の就業者保護の在り方について、本法の施行状況や就業実態等を踏まえ、本委員会において参考人から出された現場の意見も参考にしながら、労働者性の判断基準の枠組みが適切なものとなっているか否かについても不断に確認しつつ検討し、必要な措置を講ずること。」との付帯決議を行っています。これは偽装フリーランスの問題を意識しての決議であるといえます。
適用対象(法第2条1項)―適用対象者が広すぎるという問題の存在
⑴ 特定受託事業者
適用対象となるフリーランスは、「特定受託事業者」とされ、具体的には、業務委託の相手方であって、①個人であって従業員を使用しないもの(1号)、もしくは、②法人であっても代表者1人しかおらず、従業員も使用しないもの(2号)を指すと定義しています。
しかし、この適用対象は広すぎるという問題があります。すなわち、この定義では、実際には他人の指揮命令下のもと労務提供を行っている労働者も多く含まれてしまう危険があるのです。労働者には、フリーランス新法ではなく、あくまでも労働法が適用されるべきであることは是非とも強調されなければならない点です。
⑵ 業務委託事業者
特定受託事業者に対して業務を委託する事業者は「業務委託事業者」とされ、業務委託事業者のうち、①個人であって従業員を使用するもの、もしくは、②法人であって、二以上の役員があり、又は従業員を使用するものを「特定業務委託事業者」というと定義されています(第2条6項)。特定業務委託事業者は、業務委託事業者より以下に述べるような規制を受けます。しかし、後述するとおりその規制は極めて不十分です。
適正化のためのルール―未だ十分な保護規定とはいえない
⑴ 発注時の条件明示義務(給付の内容等の明示)―しかし契約締結時の契約内容明示義務の規定は欠落している
ア 発注時の条件明示義務
業務委託事業者は、特定受託事業者に対して業務委託(発注)をする場合、「給付の内容、報酬の額、支払期日」を書面または電磁的方法で明示しなければならないとされています(法第3条1項)。給付の内容とは、委託する業務の内容のことです。電磁的方法で明示した場合であっても、特定受託事業者から書面の交付を求められたときは、原則として、遅滞なく書面を交付しなければならないとされています(同条2項)。ただし、業務委託をする時点において、業務の内容が定められない正当な理由があるときは明示しなくてもよいとされています。
イ 契約締結時の契約内容明示義務の規定の欠落
他方、最も肝心な契約締結時の契約内容明示義務は、新法では 何らの規定も存在していません。そのため、例えば募集時には業務委託事業者 が月額報酬 30 万円での 募集を行ったにもかかわらず、契約時にそのとおりの契約書が作られず、仕入れなどの業務開始に必 要な準備が整った段階になって初めて、月額報酬が一方的に 20 万円に減額されていたというようなトラブルが生じかねません。
契約締結時における契約内容明示義務を法的義務として定めなければ、契約書自体が作成されない事態も十分考えられ、結局フリーランスが契約違反を訴えて法的保護を受けることも極めて困難となってしまいます。この点、参議院の付帯決議でも「業務委託に係る契約締結時における契約内容の明確化 の必要性について、本委員会において参考人から出された意見も参考にしながら検討すること。」とされており、実効性のある保護を実現するために法改正が行われるべきです。
⑵ 報酬の支払期日
報酬の支払期日については、特定業務委託事業者が特定受託事業者から給付を受領した日から起算して60日以内において、かつ、できる限り短い期間内において定めなければならないとされています(法第4条1項)。
支払期日が定められなかった場合や、60日を超える日に設定された場合には、給付を受領した日から60日を経過する日が支払期日とみなされます(同条2項)。
また、再委託の場合であり、かつ、再委託であることや元委託事業者の氏名または名称、元委託業務の対価の支払期日を特定受託事業者に明示したときは、報酬の支払期日を、元委託事業者の支払期日から起算して30日以内に定めならないとされています。
このように支払期日に関する規制はありますが、後述するとおり、肝心の報酬不払いに対する規制は存在していません。
⑶ 遵守事項(法第5条1項)―しかし報酬不払い規制が欠落していること
フリーランス新法は、次のような特定業務委託事業者に対する規制が設けられています。しかし、規制として不十分です。
ア 法第5条1項の規定
同項により次のような行為はしてはならないとされています。
① 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の受領を拒むこと
② 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずること
③ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付を受領した後、特定受託事業者にその給付に係る物を引き取らせること
④ 特定受託事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めること
⑤ 特定受託事業者の給付の内容を均質にし、又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること
イ 法第5条2項の規定
また、同項により次の行為をすることで特定受託事業者の利益を不当に害してはならないとされています。
① 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
② 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の内容を変更させ、又は特定受託事業者の給付を受領した後に給付をやり直させること
ウ しかし、肝心の報酬不払いに対する規制が欠落していること
上記ア及びイの規制は、交渉力で勝る特定業務委託事業者がその地位を濫用して不公正な取引を行うことを禁止しようとする規制であり、下請代金支払遅延等防止法(いわゆる「下請法」)第4条と同じ趣旨のルールであるとされています。
しかしながら、フリーランスが巻き込まれるトラブルの中で、典型的なものが対価の不払であるにもかかわらず、下請法4 条1 項2 号で定められた、「報酬不払規制」がフリーランス新法には入れられていないのです。前述のとおりフリーランス新法4 条では、支払期日の設定義務が定められていますが、これだけでは 下請法が定める遅延利息の支払の制裁が行われず、実効性が失われてしまいます。この点もまた、速やかに見直されるべきです。
偽装フリーランスは許されない―労働者には適正な労働者保護法制の適用を
今日、自営を偽装した雇用、偽装フリーランスによって苦しい立場におかれている人たちがたくさんいます。労働者の権利を認めない社会は、ひいては思想・良心の自由を圧殺し、言論の自由を抹殺する社会に突き進むことは明らかです。労働者の権利をないがしろにする社会に明るい未来はありません。
以上