梶原恒夫 弁護士記事

2025年4月7日(月)

過労死事案の労災申請と労災認定の最新の状況

はじめに

 過労死問題の取り組みが本格的に始まって35年以上を経ています。私たち福岡第一法律事務所も過労死110番運動が開始された当初から過労死問題に積極的に取り組んできました。しかし残念ながら、未だに過労死・過労自死事案が後を絶ちません。むしろ、職場におけるハラスメントにより労働者のメンタル不全が深刻になっており、法律相談や事件活動でもメンタルヘルスに関連する事案が増えているというのが多くの弁護士の実感だといえます。

最新の過労死事案の労災申請と労災認定件数

 このことは最新の労災申請件数と労災認定件数からも窺えます。「脳・心臓疾患事案」と「精神疾患・自死事案」のそれぞれの労災申請件数と労災認定件数を最新の統計である2023年度のデータについて見ると次のようになっています。

脳・心臓疾患

 2023年度における脳・心臓疾患の労災申請件数は1023件であり、前年度よりも220件増加しています。このうち死亡事案は247件で前年度より29件増えています。
 これに対して、これらの労災申請について労災として認定された件数は216件で、前年度比22件増です。そしてこのうち死亡事案は58件でありこれも前年度比4件増です。
 このように脳・心臓疾患の労災については申請件数及び認定件数ともに前年度より増加しています。

精神疾患・自死事案

 他方、2023年度における精神疾患・自死事案の労災申請件数は一層多く、過去最高であった2022年度よりも更に892件も増加した3575件の申請がなされており、正に激増しています。このうち未遂を含む自死事案の件数は212件で、これも前年度比29件の増加となっています。
 そしてこのうち労災認定がなされた件数は883件で、これも前年度比173件増となっており過去最高の数値です。このうち自死案件は79件で前年度比12件の増加です。

只事ではない異常な状況

 これら過労死事案の申請件数及び労災認定件数の増加は、日本社会における労働環境が只事ではない異常な状態にあることを如実に示していると言わざるを得ません。ここ数年「働き方改革」が提唱され、新たな立法もなされており、働き方あるいは働かせ方の見直しの必要性が指摘されていますが、残念ながら改善の傾向はみられません。

他人事ではない過労死問題

 過労死・過労自殺問題は,私たちの働く労働環境自体に根差したものである以上、けっして実際に被災した労働者やそのご家族だけの問題ではなく、人間らしく豊かに働きたいと求めているわれわれ一人ひとりに深くかかわる問題であるといえます。

過労死・過労自殺事件の掘り起こしの重要性

 過労死・過労自殺ではないかと疑われる事案が生じた場合、労災をうやむやにして闇に葬らないために、とにかく事実関係をできる限り調査し分析して、いわゆる事件の掘り起こしをすることが極めて重要です。労災を放置すれば、問題点は解消されないままに必ず次の被害が発生してしまうでしょう。
 労災認定へ向けた事実関係の調査及び分析という活動を通じて、当該労災の原因が明らかになり、ひいてはその職場が抱えている問題点が明らかになっていきます。労災認定を得ることだけに終わらせずに、労災認定に向けた取組を通じて,職場の改善へ向けてフィードバックさせていくことが重要です。他方、使用者としても、労災の発生という事実を真摯に受け止め、再発防止のために必要な職場改善に積極的に取り組むことが求められます。それによって作業効率も向上し結果として企業利益にもつながっていくのではないでしょうか。私はこの点を特に強調したいと思います。

過労死問題に取り組む意味

 このように過労死問題に取組み労災認定に向けて活動を行うことは,たんに被災者・遺族の個別救済に寄与するのにとどまらず,認定請求の前提として事実関係を調査し、なぜ過労死・過労自殺が発生してしまったのかを解明していくことを通じて,その職場の有している問題点を認識し,職場環境や労働条件等の改善へとつなげることができるという大きな意味をもっている。私たちの事務所はそのような思いでこの問題に取り組んでいます。

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弁護士紹介梶原 恒夫

梶原恒夫 弁護士

弁護士登録:1989年

主要な取組分野・フィールドは,「労働」をキーワードとする各種事件です。また,業務に関連して関心のある領域は,法哲学,社会思想,社会哲学です。常に勤労市民と一緒に活動していける弁護士でありたいと願っています。個別事件を普遍的な問題につなげながら。