九電値上げ問題公聴会での意見陳述
弁護士:毛利 倫
第3 値上げ認可により原発再稼働を事実上容認してはならない
次に、今回の九州電力の値上げ申請で、極めて問題なのは、九州電力が、値上げ申請の原価算定において、今年7月からの原発の順次再稼働を当然の前提として事業計画に組み込んでいることです。
すなわち、九州電力は、今回の値上げ料金を申請する前提として、今年7月に川内原発の1号機と2号機の再稼働をし、今年12月に玄海4号機の再稼働、さらに来年1月に玄海3号機の再稼働を行い、平成27年度には原子力の利用率を66パーセントにまで引き上げるとしています。
そして、九州電力の値上げ申請資料には、先ほどから述べている福島第一原発事故についての反省や謝罪といった言葉は微塵もみられず、逆に「原子力発電所の再稼働の遅延がもたらす大幅な赤字」とか「原子力発電所の早期再稼働へ向けた取組み」といった原発を再稼働させることしか念頭にない表現ばかりが目立ちます。
しかし、原発の再稼働を巡っては、国の原子力規制委員会が、今年7月までに新たな安全基準を策定する作業が進められているとはいえ、国民の多くが再稼働に反対する中、国の方針も確定してはおらず、原発再稼働自体が認められるかどうかは全く不透明な状況です。
そうした状況の中で、今年7月からの原発再稼働を当然の前提として原価計算をする九州電力の電気料金値上げの是非を審査することは、本来できないはずです。
実際、九州電力は、原発の再稼働が全くなかった場合には、家庭用、企業向け合わせた平均で35パーセント(今回の申請である11パーセントを24パーセントも上回る)もの値上げが必要だという試算を出し、国の電気料金審査専門委員会に提出しています。
国が今回の九州電力の電気料金値上げを仮に認可するとするならば、それは原子力規制委委員会による原発の安全性の審査を受けず、また将来的な電力供給のあり方といった本質的議論をほとんど経ないまま、ただ原発再稼働を事実上容認するに等しいものであり、手続き的にも実質的にも極めて問題が大きいといわざるを得ません。
国は、わが国の将来の命運を決するほど重要な問題である原発の再稼働について、今回の電気料金値上げの安易な審査によって、事実上容認してはならず、今回の値上げ申請を認可することは決して許されないと考えます。
第4 値上げ審議をする国に対して望むこと
これまで述べてきたように、九州電力は、福島第一原発の事故を総括し、その反省に立った上で原発政策を見直すことなく、引き続き電源の中心に原発を位置付け、原発を推進していく前提で今回の電気料金値上げを申請しています。
しかし、原発を維持存続していく限り、いくら安全対策を取ろうとも、事故の危険性はなくならず、再び福島のような過酷事故が起きるおそれは決して避けられません。
九州電力は、原発の維持存続に固執し、取り返しのつかない事態に陥る前に、直ちに原発政策を見直し、既存の原発をすべて廃炉にするべきであり、それにより、将来的にかかるコスト自体も下がることは確実です。
この公聴会の目的は、九州電力の電気料金の値上げ申請が妥当かどうかを審議するため、広く国民の意見を聞くためのものです。
そして、今回の値上げの真の原因は、燃料費の増加にあるのではなく、原発に依存し、莫大なコストをかけて原発を維持存続させようとしている九州電力の経営そのものにあります。
そうだとすれば、値上げ問題を審査する上で重要な点は、原価を計算して値上げ率を何パーセントにするのが妥当かといった表面的な議論ではなく、原発に依存して経営が悪化した九州電力が引き続き原発推進政策を維持する前提で申請した値上げ自体をそもそも認めてもいいのかどうかという点にあります。
国の電気料金審査専門委員会をはじめ関係各位におかれては、この公聴会の意見や原発のない社会を希求する国民の声を十分踏まえ、国民の審判に耐えうる賢明な判断をお願いいたします。
以上で意見陳述を終わります。(了)