佐賀安永訴訟 ~控訴審へのご支援を~
null:安永訴訟全国弁護団
第1 事案について
2007年9月25日、佐賀市において知的障害のある安永健太さん(当時25歳)が、その障害ゆえの行動により、パトカーで走行中の警察官から不審者であると誤認された結果、サイレンを鳴らしたパトカーに追跡され、最終的には、合計5名の警察官によって歩道上にうつぶせに倒され、後ろ手に両手錠をかけられた状態で押さえ込まれたことにより、その場で心肺が停止し死亡したという事案。
第2 訴訟等の経緯
2007年9月25日 | 安永健太さんが死亡する事件が発生 |
2008年1月17日 | 遺族が現場にいた警察官数人を特別公務員暴行陵虐致死容疑で佐賀地検に刑事告訴 |
2009年2月26日 | 遺族が佐賀県を被告として国家賠償請求訴訟を提起 |
2011年3月29日 | 佐賀地裁が警察官に対し無罪判決 |
2012年1月10日 | 福岡高裁が刑事事件について検察官側の控訴棄却 |
9月18日 | 最高裁が刑事事件について検察官側の上告棄却、無罪が確定 |
2014年2月28日 | 佐賀地裁が国家賠償請求を棄却 |
3月14日 | 遺族が控訴 |
9月22日 | 13時30分~ 福岡高等裁判所において控訴審第一回期日 |
第3 控訴理由書のポイント
控訴理由書においては、①健太さんの障害特性と、②本件における健太さんの一連の行動がその障害からすると当たり前のものであったことを明らかにした上で、③警察官らによる健太さんに対する一連の行動が著しく不適切であり、「合理的配慮」を欠いた違法なものであったことを明らかにしている。
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コミュニケーションに障害や困難を抱えた者が多数生活している統計的事実
厚労省の調査によると、精神障害者(320万1000人)、知的障害者(74万1000人)、聴覚障害者(27万6000人)、言語障害者(34万3000人)、65歳以上の高齢難聴者(270万人)、認知症(462万人)の合計は1188万人であり、日本国民の10人に一人は何らかのコミュニケーション障害をもっている。
→警察官は、対応の相手方に障害があることを当然念頭に置いておくべき。
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知的障害を疑われる者に対して警察官がとるべき対応のマニュアル化状況
全国の警察においては、「知的障害のある人を理解するために」「障害をもつ方への接遇要領」「知的障害、発達障害、精神障害のある方とのコミュニケーションハンドブック」というマニュアルが作成、配布されており、学習会も実施されている。
この中には、知的障害者がパニックになっている場合には、強引に押さえつけずに穏やかに話しかけるべきという対応方法が記載されている。
→知的障害者に特徴的な行動が見られる場合、警察官は、それを直ちに制止あるいは取り締まるべき不審な行動と即断すべきではなく、知的障害に基づく行動であることを疑い、それを確認する働きかけをすべき注意義務がある。
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健太さんの障害特性
健太さんには、知的障害のみならず自閉症傾向もあった。
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警察官職務執行法3条1項1号に該当しないこと
- 「精神錯乱のため、自己又は他人の生命、身体又は財産に危害を及ぼすおそれのある者」
健太さんが猛スピードで自転車を走行させ、赤信号を無視して第三者の車両に追突したこと、その後、手足を振り回して警察官らの拘束行為から逃れようとしたのは、警察官らによる不適切な対応が原因となってその障害特性ゆえのパニックから興奮状態になったためであった。適切な対応がなされてさえいればパニックは収まったはずであった。障害特性に基づく行動をもって「精神錯乱」というべきではない。
- 「応急の救護を要すると信ずるに足りる相当な理由のある者」
警察官は健太さんに知的障害等があることを十分に知り得たはずであり、適切な働きかけにより事態を収束できたはずであった。
- 「精神錯乱のため、自己又は他人の生命、身体又は財産に危害を及ぼすおそれのある者」
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保護行為としての相当性がないこと
両後手錠は通常の手錠使用ではどうしても措置しえない場合に限られるが、当初の押え付け行為により健太さんの抵抗はすでにほとんどなくなっていたのであるから、うつ伏せにした上で両後手錠をほどこすことは違法である。
【弁護団問合せ先】
弁護士 星野 圭、弁護士 國府朋江(福岡第一法律事務所)
事務所:092-721-1211