過労死のない社会へ!! 弁護士としてできること~過労死等防止対策推進シンポジウムを終えて
九州労働弁護団 弁護士:八木大和
2014年11月1日、過労死等防止対策基本法が施行されたことを受け、2015年11月21日、過労死防止のためのシンポジウムが福岡市内で行われました。過労死・過労自死が生じる最大の原因は、長時間の過酷な労働です。長時間の残業や休日出勤は,働く者の脳や心臓に疾患を生じさせ、人を精神的にも追い込んでいきます。
このシンポジウムでは,過酷な長時間労働の結果,亡くなられた方のご遺族3名のお話を伺いました。亡くなられた方々が過酷な労働環境に置かれなければ,まだまだ愛する家族と過ごす人生があったのに・・・。と,そう思わざるを得ませんでした。
私は,同事務所の梶原弁護士とともに,過労死・過労自死事件の労災申請や損害賠償請求の裁判に取り組んでいますが,そのことについて少しお話します。
過労死・過労自死は,労災保険が適用される可能性があります。
過労死で,脳・心臓の疾患が原因で亡くなられた場合,過酷な長時間労働であること(例,1ヵ月80時間以上の時間外労働があること)を基本的に証明していきます。
また,過労自死の場合,亡くなられた方(被災者)にはうつ病が発症していた可能性があり,労災申請ではそのことを証明する必要があります。被災者が,いかに精神的に追い込まれていったのかを証明するために,長時間労働の実態や上司からの叱責・パワハラの実態,仕事の押しつけ,職場内のフォローがないこと等を明らかにしていきます。
長時間労働の実態や職場内の様子は,会社内のことだけに,会社が積極的に資料を提供するか,職場内に協力者がいなければ,資料入手は困難です。よって,証拠保全や弁護士会照会などの法的な手続きを駆使して,証拠の収集をしなければなりません。なお,労災の申請を受けた労働基準監督署は,その権限により調査を行いますが,被災者や遺族の立場に立って,より積極的な事情の聴き取りや証拠の収集を行ってもらえるかというと,私は少し疑問を持っています。
当事務所では,これまで高速道路の通過履歴,飛行機の搭乗履歴,携帯電話の通話記録等を入手する等して,長時間労働の実態を明らかにしていきました。
このような証明を積み重ね,弁護士が意見書をまとめることで,労災保険の適用可能性を高めていきます。労災保険が適用されれば,手厚い遺族への補償が受けられます。私は,過労死・過労自死だけでなく,労働者は労災保険の適用をもっと活用すべきと考えています。
一例ですが,2014年の脳・心臓疾患の労災申請件数は763件に対し,認定されたのは277件。脳・心臓疾患を発症された全体の数からすると,まだまだ申請数自体少なく,労災として認定される件数もさらに少ない状況です。
仕事は人生を豊かにもしてくれますが,仕事,それも過酷な労働によって命を落としたり,健康を害したりすることは,絶対に避けなければなりません。当事務所では,弁護士としての活動を通じて,労働者の権利を守っていきたいと思っています。