【憲法講演】
立憲主義からみた自民党改憲案の問題点
弁護士:星野 圭
2 立憲主義とは何か?
- 国民に憲法尊重擁護義務はない【憲法99条】
∵国民は憲法の主体であって客体ではない。 - 憲法の存在意義は、「法律」とは根本的に異なる。
→なぜ国家が法律(ルール)を制定できるか。国民が憲法によって授権したから。 - 人権保障は「国家による侵害」から国民を守るもの【憲法11条、憲法前文】
→憲法によって政治権力を制約し権利を保障することが「立憲主義」の根幹 - 芦部信喜「自由は立憲主義の根本的な目的であり価値である。」
- 三大原理<基本的人権の尊重、国民主権、平和主義>は国民の自由を守るため
- 国民は憲法の主体であり、国家ないし政治権力が憲法の客体である。
- 人権制限は、他の人権との調整のためにのみ許される。国家ないし政治権力による恣意的な人権制限は絶対に許さないというのが近代立憲主義の基本理念。
- 自由だけでは個人の尊厳を守れない場合に備えて、生存権・社会保障がある。個人の尊厳を守るためにその前提となる生活基盤を保障するのも、国の責任。
- 1789年フランス人権宣言16条「権利の保障が確保されず、権力の分立が定められていない社会は、すべて憲法をもつものではない。」
- 明治憲法制定時の伊藤博文「憲法をつくる目的は君主の権力を制限すること、そして臣民の権利を保護することにある。権利を宣言せず責任だけを宣言するなら、憲法をつくる必要はない」
※権力を制限するという立憲主義の考え方を基礎としている。ただし、「臣民」の権利は、国家(天皇)に劣後するものとされていた。 - 日本国憲法は、憲法以前に存在する人間の権利を実定化したもの。
→この考え方が、【憲法前文】に込められている。 - 宮沢俊義「人間の尊厳の確立が、人間の歴史の必然の方向であるとすれば、政治原理としての国民主権もまた、その方向に沿うものとして、たとえ、降伏によって促進されたという事情があったとしても、その本質においては、どこまでも世界史的必然性をもつものと見なくてはなるまい。」
3 自民党改憲案が目指しているのは何か?
- 目指しているのは、政治権力に対する国民による「縛り」からの解放。
- 国民は、憲法の主体ではなく客体へ。憲法が、権力を縛る存在から国民を縛る存在への変容。国民の義務の拡大。
【前文、102条、3条、12条、92条2項、99条3項】 - 国民主権の後退。はじめに天皇をいただく国家ありき。助言と承認制度の削除による天皇の独立。
【前文、1条、6条4項】 - 人権保障の大幅な後退。人権は国家が「侵してはならない」ものから、国家が「保障する」ものへ。「公益及び公の秩序」による制限の新設。言論統制の正当化。
【憲法97条削除、13条、19条、21条2項、29条2項、73条6号】自民党 片山さつき議員の2012/12/07 12:37:08 のツイート
「国民が権利は天から付与される、義務は果たさなくていいと思ってしまうような天賦人権論をとるのは止めよう、というのが私たちの基本的考え方です。国があなたに何をしてくれるか、ではなくて国を維持するには自分に何ができるか、を皆が考えるような前文にしました!」 - 社会保障における国家責任の後退。共助の強制。
【24条1項、83条2項】 - 平和主義の放棄。海外派兵の無制限化。軍事法廷の復活。緊急事態宣言による総理大臣大権。徴兵制も解釈上可能。
【憲法前文削除、9条、★9条の2、9条の3、18条、25条の3、98条、★99条】 - 日本は、世界史的必然性を放棄することに。国際社会からの孤立。
4 憲法96条改正という落とし穴
- 【憲法96条】は単なる手続を定めた規定ではない。明確な思想を持っている。
→憲法第10章最高法規=【憲法97条~99条】で歯止めをかけている。 - 立憲主義であるがゆえの硬性憲法。
- 内容に言及しない改憲論ほど危険なものはない。白地手形。
- 自民党比例代表得票27.6%(小選挙区43%)→294議席獲得。
- 国民投票法は有効投票総数の過半数で、改憲成立としている。
- 投票の対象は、個別の条文ではなく、「改正案」(テーマごと?)全体について一票。
5 今も進行している立憲主義の破壊・壊憲
- 社会保障と税の一体改革(2011.7.1閣議報告)
労働者の賃金下落2000年=461万円、2011年=409万円
全企業の内部留保は現在274兆円。 - 社会保障と税の一体改革(2012.2.17閣議決定)
社会保障費削減と法人税減税 - 生活保護バッシング(2012.5)-片山さつき、小宮山洋子厚労大臣
- 消費税増税決定(2012.8)
- 社会保障制度改革推進法(2012.8.10成立)-社会保障の自己責任化
→保険料方式=負担と利用が対価関係(個人の自己責任という考え方に親和的)、税方式=応能負担による利用(国の責任という考え方に親和的)but消費税・・・
(基本的な考え方)
第二条 社会保障制度改革は、次に掲げる事項を基本として行われるものとする。
一 自助、共助及び公助が最も適切に組み合わされるよう留意しつつ、国民が自立した生活を営むことができるよう、家族相互及び国民相互の助け合いの仕組みを通じてその実現を支援していくこと。
二 社会保障の機能の充実と給付の重点化及び制度の運営の効率化とを同時に行い、税金や社会保険料を納付する者の立場に立って、負担の増大を抑制しつつ、持続可能な制度を実現すること。
三 年金、医療及び介護においては、社会保険制度を基本とし、国及び地方公共団体の負担は、社会保険料に係る国民の負担の適正化に充てることを基本とすること。
四 国民が広く受益する社会保障に係る費用をあらゆる世代が広く公平に分かち合う観点等から、社会保障給付に要する費用に係る国及び地方公共団体の負担の主要な財源には、消費税及び地方消費税の収入を充てるものとすること。
- マイナンバー法(2013.05.24可決成立)
→国民総背番号制による一元的情報管理 - 生活保護基準の引き下げ(2013.8実施)
住民税非課税の対象者は3100万人、この内数%は新たに課税対象者になる。
→保育料、介護保険料、障害者福祉利用料が増大する世帯が多数出現。 - これからどういう動きがありうるか。
- 人権擁護法(2002小泉内閣、2012野田内閣)-マスコミ規制
- 国家安全保障基本法(2012.7.4)-集団的自衛権の行使、国民の安全保障施策協力義務、武器輸出三原則の放棄。
- 憲法96条改悪-立憲主義の破壊
- 投票のコンピューター管理+マイナンバー=思想調査、政党支持調査
- 憲法改悪後に再度硬性憲法とすることで人権を取り戻すことが困難に
以上
【資料】添付省略
- 自民党憲法改正草案(条文対照表付)抜粋
- 赤旗記事:ストップ96条改憲・小林節慶応大学教授