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活動紹介貧困問題:生活保護

2014年3月16日(日)

大野城市福祉事務所事件勝訴判決

弁護士:深堀 寿美

  1. 3月11日、福岡地方裁判所第三民事部は、大野城市福祉事務所事件において、生活保護制度利用者である原告勝訴の判決を言い渡しました。この事件に、当事務所では、複数の弁護士が関与していました(國府、八木、星野、城戸、深堀)。
  2. 争点は複数、あります。争点1は、福祉事務所が間違って多く支払った保護費の返還が認められるかどうか、争点2は、当該生活保護制度利用者が地方自治体の設定する最高額を超える家賃のところに住まう必要があるときに、当該家賃全額を生活保護制度から支出することができるか、争点3は、生活保護制度利用者が、地方自治体の設定する最高額を超える家賃のところに引っ越す必要があるときに、生活保護制度で敷金が支給されるのか、です。裁判所は、争点1について、生活保護制度利用者が負担すべきかどうか、過誤払いの状況、利用者の生活状況に勘案して福祉事務所の方はもう少し慎重に検討すべきなのに、そのような検討もせず一方的に返せというのは裁量権の濫用だ、として、福祉事務所の返還決定処分を取り消しました。また、争点3について、生活保護の実施要領の解釈としては、基準家賃を超えるところに引っ越したからと言って、それだけで、敷金を1円も出さないということにはならないだろうから、敷金の支給について、もう少し慎重に検討すべきであったのに、そのような検討もせず一切支給しないというのは裁量権の濫用だ、として、不支給決定を取り消しました。争点2、設定の最高額を超える家賃設定については、必ずしもその必要性があるかどうか疑問なので、その義務まで福祉事務所に負わせることはできないとし、利用者の請求を退けました。
  3. この判決は、まず、福祉事務所が過誤払いをしたが、税金だからとにかく全額戻してもらう、という硬直した扱いは認められないことを認めています。生活保護制度利用者は、最低限度の生活費の支給しか受けておらず、「過誤払いを返せ」といわれても、使ってしまったものは、将来の最低生活費でしか返還できず、そうなると、相当な期間、最低生活を下回る生活を余儀なくされます。そのようなことは適当ではないので、裁判所のいうことは当然と言えば当然でした。

    また、必要な引っ越しに当たって支給される敷金扶助に関しても、いくら生活保護費が支給されない高い家賃のところへ引っ越すのは望ましくないからといって、基準内のところであれば支給されるはずの敷金扶助が1円も出ないというのはどう考えてもおかしいです。しかし、実務では、この扱いが一般的になってしまっていました。すると、そもそも、生活保護制度利用者の方が、敷金が出ないのであれば引っ越しができないと、必要なのに高い家賃のところへ引っ越すことを諦めてしまって問題が顕在化しなかったり、裁判で争っても、そもそも引っ越しの必要性やその他のことが問題になったりして、敷金を1円も出さない実務がおかしい、という判断を引き出すことができていませんでした。

    しかるに、今回の事件では、家賃が設定額を多少超えても、当該家賃のところに引っ越す必要性は福祉事務所も認めていることなので、そのような時にまで1円も支給しないのはおかしい、という明白な判断を示した画期的な判決です。

  4. 考えてみれば、二つとも至極当たり前の判断です。なのに、こと生活保護制度に関しては、当たり前のことがなぜだか通りません。私が昔担当した、「学資保険裁判」でもそうでした。高校に行くために前々からお金を貯めて準備する、その当たり前のことが生活保護制度利用者には認められない、と言われた不当な事件でした。

以前の学資保険裁判もそうでしたが、今回の裁判でも、この「当たり前」のことを裁判所が「当たり前」ときちんと判断してくれるおかげで、どれだけ沢山の生活保護利用者のみなさんを励ますことができるか。

当事務所の担当弁護士や弁護団の弁護士は、学者の方の助力も得てもちろん勝訴すべく奮闘しました。が、きちんと判断してくれた裁判所にも謝意を表したいと思います。

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